人狩りの夜 2
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「いささか誇張があるわね。五〇年前ならまだしも、人道を重んじ法を遵守する為政者たらんとするアリシア七世陛下の御世でそのような横暴は通らないわ」
「八〇人も切り刻んだ大量殺人犯だ。お家取り潰しのうえ本人は断頭台送りかな」
「でも、今のアリシア女王の立場は盤石とは言えない。そのため貴族階級の支持を保持しておく必要があるわ。彼らの反感を買わないために大貴族を死刑に処す可能性は低いと思う。いっさいの公務からはずされてオルランド追放といったところかしら」
「所払い、追放刑とはまたずいぶんと軽い罰だな。こういう手合いは生きている限りおなじことを繰り返すぞ」
「古来より統治の要は公平な税制と裁判だと言われているわ。女王陛下に代わってこの美少女仮面ぺルルノワールが正しい裁きをくだします。判決、死刑!」
「ヒェッ!」
腰に提げた細剣を抜き放ち、断罪の刃を振るおうとした美少女仮面の動きを秋芳が制した。
「まぁ、待て。何十人もの人を生きたまま切り刻んできた凶悪極まりない殺人鬼を一瞬で楽にしてやることもないだろう。こいつの処置は、こいつに殺された人々と近しい人達の手にゆだねるべきだ。首に罪状を書いた標識でもぶら下げて移民街の晒し台の上にでも立たせてやれ」
秋芳の手がライスフェルトの背中にのび、ふたことみこと呪文を唱える。
「ふがっ」
途端に老人の体が痙攣し、硬直した。
錬金改【ポイズン・エンチャント】。武器や手足に毒を符呪する特殊呪文。
魔術による毒の攻撃というのは基本、散布系呪文であり、黒魔術の【エア・スクリーン】を張れば防げるし、もし毒を受けたとしても白魔術の【ブラッド・クリアランス】で浄化ができる。
魔術製の人工毒をあつかう呪文は術者がよほどの使い手でない限りは決定力に欠けるというのが常識だ。
にもかかわらず、毒というものは魔導戦史上でも魔術戦においても多大な成果を残し続けてきた。
なぜか?
ひとつは天然毒の存在である。
毒蛇や毒虫、毒草。動植物が生来持つ、自然界に存在する天然の毒は魔術製の人工毒とは異なり、クシナ蛇の毒にはルラート草、バジリスクの毒にはヘンルーダなど、解毒呪文の施術のさいに特定の薬剤や魔術触媒を必要とする。
判明している全種類の触媒を常に持ち歩くわけにもいかない。人工毒を併用してこのような毒物を密かに盛られた場合、解毒は困難だ。
毒使いの魔術師達は多種多様な手で敵を毒殺してきた。ルーンの秘密を知り、この世の神秘を解き明かしたはずの魔術師がひとしずくの毒で命を落とした例は数知れない。
このように、武器に毒を塗るのもそのひとつ。
秋芳はおあつらえむきにライスフェルトの体にメスが刺さっているのをいいことに、毒を直接注入してやったのだ。
「…………ッ!?」
秋芳が
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