人狩りの夜 2
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ェッ!?」
踏みつぶされたガマガエルのような声をあげて醜い肉の塊が宙を飛んだ。
空中で両手両足をバタつかせ、右の肘と背中から壁に衝突したのだが、そのときなおドクターの右手はメスをにぎって離さなかったため、壁に叩きつけられてずり落ちたさいにまがった腕が背中にきた。
ドクター愛用のメスはドクター自身の背中に深々と突き刺さった。
「プギィィィッ!?」
痛みに絶叫をあげてのたうちまわる。
「そんなことをしたらますます深く刺さるぞ」
「抜いてくれぇぇぇ、痛い! 痛い!」
幼い子どもを麻酔なしで解剖した老人だ。
他人の苦痛に悦びをおぼえるサディストだが、自分自身の苦痛に耐える強さは毛ほども持ち合わせておらず、つねに加虐者としての立場にあったドクターは自分が被害者となることなど想像してもいなかった。
「おまえが切り刻み、痛い痛いとうったえる人達に対して、おまえはどうした。加虐の手を止めたのか? 少しは人の痛みを思い知れ」
のたうちまわる肉塊を冷酷に見下す秋芳のうしろで、ペルルノワールは拘束具に縛られた少年を解き放ち、口枷もはずした。
「ぺ、ペルルノワール!?」
「ええ、そうよ。美少女仮面ペルルノワール。ここに推参☆」
「すごい、本物のペルルノワールだ! ペルルノワールが助けに来た!」
「うふふ、さぁ、もうだいじょうぶよ」
「しかし『ペルルノワール』てのは本当に有名人だったんだなぁ」
「あなた、本当にわたしのことを知らなかったの? 美少女仮面ペルルノワールを知らない義賊だなんて、とんだモグリだわ」
「なにせつい最近セルフォード大陸に流れ着いたばかりの身でね。オルランドに来たのも数日前だ」
「こ、この卑賎者どもが、こんなことをして無事ですむと思うなよ!」
肥満した身体をゆすって恫喝するドクターのペストマスクをはぎ取ると、ガマガエルのような容貌が外気にさらされた。
「知った顔か?」
「……ええ、ライスフェルト・ズンプフ侯爵。過去に法医大臣を務めたこともある、製薬会社を経営するオルランド医薬会の重鎮よ」
「医療にたずさわる者が、快楽殺人に興じるとはね……」
「この人物にはむかしから黒い噂があったわ。先の大戦のさいに法医術特殊部隊を指揮して、錬金術や薬の研究と称してレザリア王国の捕虜を生体実験によって虐殺したという噂がね」
「まるで731部隊や九大事件だな」
「そ、それがどうしたというのだっ。わしが今までに手にかけたのは侵略者どもや非市民の連中。獣のようなやからを解剖しても、なんの問題もなかろうが」
「裁判官の前でもそうやって情状酌量の余地皆無な弁明をするんだな」
「ふん、上級貴族であるわしが裁かれるものか。法官どもなぞわしら上級貴族の思うがままじゃ」
「そうなのか?」
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