人狩りの夜 2
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恐怖に開いたボルカン人の瞳孔を、白い繊手が閉ざす。
「ボルカン人が聖エリサレス教の祈りをありがたがるとも思えないが」
「たしかに。彼らにとっては故郷を滅ぼした侵略者たちの信仰する教えですものね」
宗教国家であるレザリア王国は聖エリサレス教至上主義で、他宗教を徹底的に排斥してきた。かの国の宗教浄化政策によって故郷を失った人々はシルヴァースの民だけではない。ボルカン人もそのひとつだ。
「けれども、わたしはほかに祈りの言葉を知らないから……。これから言葉ではなく行動でこの人の魂を救済するわ」
「狩りの標的にされている人々を救い出し、クェイド侯爵の悪行を暴露するんだな」
「ええ、そうよ」
「しかし一体何人の人達が連れ込まれ、どこにいるのやら。こんな広大な敷地内でどう動くつもりだ」
「個別に助け出さなくても、騒ぎを起こして狩りどころじゃなくすればいいのよ」
「そこらに火でも点けてまわるのか」
「火事になったら連れ込まれた人にも害がおよぶかもしれないでしょ。それよりも――」
美少女仮面の細くしなやかな指先が館の方向を指し示した。
「敵の本拠地を叩き潰す! 派手にね」
「なるほど、そりゃ大騒ぎだ」
「行きましょう」
「行くか」
「行くわ」
そういうこととなり、ふたつの影が疾駆した。
【トーチ・ライト】によって皓々と照らされた広い地下室には奇妙な形の家具や調度品がならんでいた。
壁に掛けられていたり天井から吊るされているもの、オブジェのようにテーブルの上やソファを飾り立てているもの。いや、ソファ自体も――大小様々なそれらは、すべて人骨や皮膚など、人の体の一部で作られていた。
「ドゥフッ、ドゥフフフフッ」
人骨で作った骨組みに人皮を貼った椅子に座った肥満体の老人が不快な笑い声をあげる。
この老人も先の狩人達のように仮面をしていた。鳥のような長い嘴が突き出した黒いマスク。ペストマスクと呼ばれる、黒死病患者を専門的に診る医師が身につけるものをかぶっている。
「この椅子はわしの最高傑作でなぁ、こうしてちょうど手が置かれる場所におなごの乳房を貼りつけてある」
醜く肥えた芋虫のような指を動かして、肘かけの先端にある茶褐色の突起をもてあそぶ。
乳首だ。
切り取られた女性の乳房が、椅子の肘の先をおおっているのだ。
「だからこうしていつでも乳が揉めるのじゃよ、ドゥフフフフ!」
「ンンーッ! ンンッンーッ!!」
部屋の中央に置かれた寝台の上に拘束された少年が恐怖と嫌悪に叫び声をあげようともがくが、口枷のせいでまともな声にならない。
「ドゥフフフフ、いいぞいいぞ。その恐怖におびえた顔、たまらん! おまえより下の弟どものほうが好みなのじゃが、残念
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