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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 50
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うか、その手を放せぇぇえええッッ!!」
 咄嗟に両腕で胸部を庇い、大きく飛び退いてガラス窓に背中をビタッと貼り付ける。
 羞恥と驚きで潤んだ目線の先に両腕を伸ばしたまま腰を屈めている女性は、よくよく見ると自分より背が高く、胸が……大きい……。腰も括れてる……。なんたる屈辱感……。
 緩やかな髪も首筋で束ねてるだけで腰辺りまで伸びてるし、靴すら履いてない素の白い両足には僅かな傷も無く、筋肉の付き方からして美しい。
 あ。駄目だコレ。同じ顔(此方のほうがやや年下と推測)の別人に何かがボロ負けしてる。惨敗だ。
 「教会内で大声を出すものではなくてよ?」
 「誰の所為ですか、誰の!」
 「一時の感情を抑制できない貴女の所為」
 「そう言われればそうかも知れませんがっ! なんか理不尽!」
 「貴女も体験してきた通り、大人の世界で理不尽じゃないモノなんか滅多に無いわ。権力者に理不尽を訴えても、今更感満載で嘲笑の的になるだけよ。早急に慣れなさい。そして、理に適う対応術を身に付けなさい。一方的に操られる滑稽な人形に成り下がる前にね」
 「!」
 「ふふ。感情に素直な様はとても愛らしいけれど、今日は戯れる為に呼んだ訳ではないの。お入りなさいな」
 虚を衝く鋭い言葉で固まった腕を優雅な仕草で引っ張られ、開いた焦げ茶色の扉の内側へ招かれる。
 って……
 (この女性がアリア信仰アルスエルナ教会の次期大司教・プリシラ様だったのか!)
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 「さて、と」
 勧められるまま客席に座った自分の手前へ淹れたての紅茶を差し出し、ローテーブルを挟んで正面の白いソファに腰を下ろしてから、膝の上で両手を重ねる。その動作には隙と呼べるものが一切無く、それでいて優雅だ。名家の令嬢、高位聖職者の肩書きは伊達じゃない、と言うべきか。
 ……切られた裾や素足には突っ込んで良いのか判らないので、目を伏せておく。
 「改めて挨拶させてもらうわね。私は、アリア信仰アルスエルナ教会の現中央区担当司教にして次期大司教・プリシラ=ブラン=アヴェルカイン。位は公爵で、この中央教会に於ける二番目の責任者よ」
 「あ、はい。私は、」
 「ふふ。貴女は良いのよ、リアメルティ伯爵令嬢ミートリッテ。私は、貴女が自覚してるよりも多くの詳細を、貴女よりも正確に把握しているから」
 「へ?」
 折り目正しい挨拶に慌てて頭を下げようとするが、軽く上げたプリシラの手に遮られてしまった。
 そして。
 「バーデル王国の港町ハーゲンで娼婦をしていたお母様ミリアリアと、一般上がりで外交書記官をなさっていたお父様ノインクロイツの一人娘。生粋のアルスエルナ人であるお二人から金色の髪と藍色の目と白い肌を授かった為に、ハーゲンでは民族意識と排他主義を根源とする迫害を日常
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