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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 50
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たら生涯無償で強制労働させられそうだと口元を引き攣らせつつ、てふてふ歩いて行くと。
 「……っ!?」
 信じられない物が視界に飛び込んできた。
 (ま……まさか、そんな!)
 廊下の突き当たり正面に在る、焦げ茶色の堅そうな扉。その両脇に儚げな容姿でひっそりと、しかし、無視できない存在感を放って佇むあれは。
 思わず駆け寄り、触れるか触れないかギリギリの所で視線と指先を上下左右に泳がせる。
 (山型の台座から細長くも歪み無く真っ直ぐ伸びる黄金色の美脚に、絡み付くような着色ガラス製の葉っぱと茎。白濁した五枚の花弁の中央にピンと立った鋭い針と深型の金皿。そのどれもが一切の妥協を許さない、実物と見紛うほどの精密な造り込み。……間違いない。これはっ)

 「旧史一三七八年頃。バーデル王国の前体制であるアレスフィート公国の工業全盛期に、世界初の貴族女性装飾技師・フィルメランタ=クルールが作り出した元始の花型複材燭台。二十台前後の連番中、多くは歴史の流れに消えてしまったけれど、近代確認された三台の内、一台は一昔前に北大陸の内乱で焼失。一台がアルスエルナ国内で発見・修復されたそれ。右隣のは修復を担当した装飾技師が作った模造品で、もう一台はアリアシエルの教皇室に納められているわ。ふふ……あの距離から迷い無く本物に駆け寄るなんて。貴女、優れた鑑定眼を持ってるじゃない」

 「みゃぎゃっ!!?」
 その筋では大変貴重な歴史的文化遺産と呼ばれ、装飾技師と職人見習い達の誰もが死ぬまでに一度は見てみたいと血眼になって探している幻の逸品。それに出逢えた喜びと感動に浸っていて、油断した。
 まさか近くに人が居たなんて! と、反射的に身構え……
 「……あれ? 鏡? 幻聴?」
 誰も居ない。
 いや、居るには居るが。不思議そうな顔で此方を見つめているのは、水辺で見慣れた自分の顔だ。
 バンダナで覆い尽くせるよう、短く切り揃えた金色の緩やかな髪。
 南の地に在っても、何故かあまり陽に焼けない白い肌。
 陽光が落ちた直後の、ほんのり明るさを残した北西の空と同じ藍色の目。
 胸元に揺れる銀色の水鳥も、真っ白い長衣から覗く白い両膝も……
 (……ん? 膝? 出してたっけ?)
 「ふぅん? 想像していた以上にそっくりね。これなら十分楽しめそう。でも、惜しいわ」
 足元を確認しようと下げた視界に
 「此処がもう少し成長していればねぇ」
 洗濯板をぺたんと押さえる二本の腕が生えた。
 「……………………………………。」
 「あら。手触りは悪くない」
 むにゅ?
 むにゅって何だ、むにゅって。
 幻覚や幻聴にしては感触が妙に生々しい……
 「ってぇ! さすがの私でも、生の人間が触れば現実かどうかくらい判別できるわぁッ! 貴女、誰!? 何者!? とい
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