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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 50
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出す。
 「嬉しそうだな、お前」
 正面に座ったセーウル王子……ヴェルディッヒが、寂しくないのかと頭を傾ける。
 七年間を過ごした最愛の故郷だ。寂しくないのかと尋かれれば、どんなに決意を固めてたって別れは寂しいに決まってる。
 でも。
 「嬉しいよ? だって」
 扉の上部に填まってる小窓の向こうで、少しずつ小さくなっていくエルーラン王子と、アーレストと、ハウィスの輪郭。
 「みんなが笑ってるもの」
 反対側の小窓に目をやれば、神々しいほどの白光が濃い青と深い緑を照らし出していた。
 今……長い夜が過ぎ去り、新しい未来が始まる。



 南方領を中心に活動していたシャムロックだが、他方領へ出向いた回数は両手の指で足りる程度だ。それも、領境から一日で移動できる範囲内が、子供の体力と精神と時間と金銭の限界だった。
 つまりミートリッテには、南方領と直接繋がる東方領か中央領の端っこまでしか立ち入った経験が無い。人口と物流と文化の規模は、幼少期を過ごしたバーデルの港町か、南方領で一番大きい街が最高基準になっていると言って良い。
 勿論、「都」と称される国の中心部が他の領地と肩を並べる程度で収まる筈がないのは解っていたが、最高基準を越える規模など、想像やら妄想やらの域を出られるワケもなく。
 要するに
 「どうしても、駄目ですか」
 「はい。貴女お一人で、お通りください」
 「どおおおおおおしても??」
 「何度でもお答えします。貴女お一人で。お通りください。」
 「うぅぅー……生きて出られる気がしない……」
 ネアウィック村と南方領の中心街全域を呑み込んでも余りありすぎる王都の大きさ・人口の多さ・途切れない商人の列・陽が落ちても下がらない熱気・いつ見ても不自然な白さが際立つ外壁の群れ等々に気圧された挙句、アーレストの教会なんか内部で幾つでも現物保存できそうなバカでかい中央教会の外観に戦慄し、「奥まではお一人でお進みください」なんぞと迷子確定な処刑宣告を受けて尚、平然としていられる田舎娘は存在しないだろう。という話だ。
 受付の席に座る長衣姿のお姉さんの清々しい笑顔が、いっそ憎らしい。
 「セーウル殿下ぁー……」
 「中央教会は治外法権だ。諦めろ」
 「デスヨネ」
 数多の雨嵐が吹き荒ぶ悪天悪路の最中(さなか)を突き進み、点在する居住地で休憩を挟みつつ馬を換え車輪を換え馬車を換え、三ヵ月近くの時間を掛けて(ようや)く辿り着いた王都。これそのものが山なんじゃないかと疑った巨大な王城の広々した客室で一泊後、第三王子の帰還に併せて次男不在の国王一家とご挨拶。更に一泊して本日、次期大司教への挨拶の為、ヴェルディッヒの案内で中央教会の関係者専用受付へ。執務室まで一緒に通されるかと思いきや、見学人や信徒達でごった返す見知らぬ建
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