暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 50
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)い。頭がくらくらしてきた。中央教会に足を踏み入れたばかりで何も為さないまま早々と後悔しそうになってるが……
 ふるふると頭を横に振って、気持ちを入れ替える。
 (ハウィス達が私の支援を待ってる。私は此処で、私ができる事をしっかりやらなくちゃ)
 「プリシラ様」
 両手で拳を握り、どうやら自分の存在で遊ぼうと企んでいる直属の上司を見据えると、彼女は「ん?」と首を傾けた。
 「愚痴は……たまには言っちゃうと思います。けど、私が貴女に望むのは話し相手ではなく、次期大司教の補佐に相応しい人間を育て上げる事です。手助けは必要ありませんが、私が貴女の隣に立つその日が来るまでは、何があってもずっと見ていてください。お願いします」
 「……ただ見ているだけで良いの?」
 「はい」
 誰かの成長を見つめ続けるのは、もどかしさのあまり手を出したくなったり不安で見ていられなくなったりと、実は結構難しい。
 だからこそ、誰かが見てくれているという事実は自分の足で歩く為の確固たる力になる。
 いつか貴女達の元へ辿り着き、更に先へ進む。その為の力に。
 「……気高き者ミートリッテ=ブラン=リアメルティ。貴女に、女神アリアの御加護があらんことを」
 貴族の令嬢でも、他人を揶揄って遊ぶ恐ろしい女性でもない、次期大司教としての厳粛な空気を纏ったプリシラが、自身の胸元よりもやや上辺りで左手のひらを翳す。
 上位の聖職者が下位の聖職者に贈る祝詞だ。上半身を軽く折り、黙してそれを受け止める。
 「本心から、貴女の成長を楽しみにしているわ」
 「……はい。精一杯、努めさせていただきます」
 上体を起こし、再度同じ顔を見合わせる。しかし、どちらの顔にも笑みは無かった。

 過去、南の地を駆け回ったすばしっこい山猫はもう、何処にもいない。
 風に乗った三つ葉は大地の中心へ降り立ち、やがて見渡す限り一面を鮮やかな緑色に染め変えるだろう。
 遠く離れた愛しい者達へ届きますようにと、願う心そのままに。

 
 


 ……ところで。
 コーヒーの実がぶつかってきた時に聴こえた偉そうなあの声は、結局なんだったのか。アーレストに何度確かめてみても、そんな声は知らないとしか返って来なかった。
 時間の経過と共に、自分でも本当に聴こえていたのかどうか自信が失くなっていく。
 (やっぱり、幻聴だったのかなぁ)
 白いバルコニーが映えるくっきりした青空を見上げ、ミートリッテは無言で首を捻った。


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