暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 50
[16/18]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
見ですから、国境付近にそのまま置いておくのは危ないって思っただけです。実際、発見者の私に密輸罪を吹っ掛けて大森林の所有権まで主張するくらい必死でしたし」
 コーヒーノキは西大陸南部が原産の植物だ。その果実から採れる種子(焙煎済)は先の大戦以前から中央大陸にも少数輸入され、富裕層の間でのみ売買されていた。
 が。
 戦後、バーデルの最南部でも自生するコーヒーノキが発見され、国を挙げての栽培計画が成功を収めると、中央大陸全土での需要が一気に高まった。
 コーヒーノキと生の果実(種子)は必然的にバーデルの国有財産となり、現在は他国での栽培阻止……要はバーデルの利益保持の為、国外への持ち出しを極刑付きで全面禁止にしている。
 大森林で額を打った団栗がまさかのコーヒーの生果だったと知った時は、本気で死を覚悟したものだ。自分のあやふやな証言で一緒に未開拓の森奥を探し回り、複数の場所で自生成熟したコーヒーノキを見付け出してくれた騎士達は、正真正銘、命の恩人である。
 「コーヒー製品はバーデルの特産品であり代名詞。憎いアルスエルナに奪われるなど、到底受け入れ難い話よね」
 「はい。ですから、バーデル国王の代理人と軍の代表者、私と二世代領主と大司教様方が協議した結果、領土管理はリアメルティ領主。開拓に関わる全権利はアリア信仰。労働従事者の監理はリアメルティ領主及び国境を挟んで隣合わせのベルゼンディ領主で、労働力の紹介と派遣は私とバーデル側の担当者で半数ずつ。コーヒーノキは二国の技術連携で栽培・管理。販路はアリア信仰を通した全大陸。売り上げの配分は試作品が完成した後の調整、という形に落ち着きました。表向きは。」
 「表向きは、ね」
 「事故に見せかけた追突とか転落とか賊もどきの襲撃とか、二度と体験したくないです」
 「残念! 要人の日常茶飯事よ。人気者は辛いわね」
 「ええ、ええ。仕舞いには刃物が飛び交う大草原を笑いながら追い掛けっこしましたよ! こうなりゃヤケクソだこんちくしょーって叫んだら、言葉遣いを正せ愚か者ーって怒鳴られましたけどね! 何故か、両国からの追手全員に!」
 「楽しそうでなによりだわ」
 「解せませぬ!」
 「可愛い子には可愛い振る舞いをして欲しいものなのよ。殿方としてはね」
 「……追手の性別も友達情報ですか?」
 「さぁ? どうかしら」
 膝の上に置いていた茶器をローテーブルへ戻し、音も無く客席の横に立ったプリシラが、自分の手を取ってゆっくり立たせる。
 「ねぇ、リアメルティ伯爵令嬢ミートリッテ。味方である筈のアルスエルナ国王にまで襲われかけたのに誰も助けてくれない理不尽な世界で、これからもずっと生きていける? この先何が起きても、此処に来た事を後悔せずにいられる?」
 自分を試すように覗き込む一対の藍色。一切揺るが
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ