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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 50
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文字の読み書き」や「外国人との淀み無き会話」が含まれるほど高度な教養と完璧な礼儀作法が求められているの。それらは一年や二年で身に付く軽々しい物ではないわ。だから、中央区司教第一補佐の修業期間は、一般修行徒のそれよりもずっと長く厳しい。特に貴女の場合、先日入信したばかりで貴族社会や聖職に関わる実効知識は皆無に等しく、教会内に於ける信用度も零からの始まりでしょう? これといった特色も無い状態で突然「二代後の大司教です。よろしくお願いします」と顔出ししても、役員達の間で無用な軋轢を生じさせるだけよ。まぁ、顔見せ当日から私と同等量の仕事を失敗無く熟してみせるとかで周囲の人間を即時納得させる自信が貴女に有るのなら、全過程を省いてあげても構わないけれど……」
 思わせぶりに逸れた視線を辿り、バルコニーを背負う向きで設置された机の上下周辺に山積みされた無数の紙束を捉える。その体積、ざっと見、アーレストの教会で処理してきた書類の二十倍以上。
 「一日分の、まだ半分」
 「ぜひべんきょうさせてください、しゅぎょうだいすきです、なんねんでもがんばりますよ、ほんとうに。」
 「頼もしいわ。頑張ってね」
 「はい、よろこんで。」
 この女性(ひと)、いつ寝てるんだろう。部屋の四分の一は書類で埋まってるんだが。あんなの、一日で対処できる量じゃない。恐らく一週間でも無理だ。しかも、まだ半分って。素人が手を出したら、腱鞘炎どころか脳にも異常を来すんじゃなかろうか。発狂してないのが不思議だ。自分もいつかは同じ量の仕事を任されるのかと思うと、気が遠くなる。
 しかし……
 (次期大司教の第一補佐って、厳密には「出世を確約された修行徒」の扱いなのね。だから、条件さえ満たしていれば何処の誰が選ばれても問題無かったんだ。文字の読み書きや外国人との流暢な会話となると、ごく普通の一般生活じゃ然う然う習得できないし、今までは貴族とか商家出の信徒から選出されてたんだろうけど)
 現時点の自分は一般信徒よりも実務に遠く、一般修行徒よりも経験不足で、教会関係では何の権限も無いし、人的な繋がりも期待は薄い。与えられた準備期間でも足場構築に間に合うかどうか。加えて、信仰心の有無を問われたら「ごめんなさい」としか言えない現実。
 これぞまさしく、役立たずの極致。
 (焦っても仕方ないって、判ってはいるんだけど……)
 あまりにも無力だ。
 そう、溜め息を吐きかけ
 「聖職に直接関われなくても、貴女がやれる事はたくさんあるでしょう?」
 「ぐふっ」
 喉で引っ掛かった。
 「あの……国政や宗教に携わる方々って、心を読む力でも持ってるんですか?」
 「だとしたら、それはそれで楽しそうね。誰も彼もが正直な嘘吐きにならなきゃいけない世界。どれだけの腹芸師が心労で倒れるか……ふふ。見物(み
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