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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 50
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けを見せて欲しいと願う、相手の事情や気持ちを少しも考えてない身勝手な好意が、自分自身の音を狂わせ、周囲の旋律に悪影響を与えるの。例えば旬を無視していつでも食べられるように作り変えられた野菜。例えば家畜として閉じ込められ与えられる飲食物しか口にできない動物。例えば川の流れを無理矢理変えたり、本来其処には無かった動植物を連れて来たり植え付けて生態系を崩したり。植物には植物の、動物には動物の、そう在るが為に越えられない明確な線が有って、それ故に世界は均衡を保っていたのに。人間はそれらを全部、自分の都合だけで破壊しているでしょう?」

 『それに、ネアウィック村は総じて音が心地好い。必要以上に理を捻じ曲げず、生命が活力に満ち溢れている証拠です。此方に来るまでの街等では胸を引き裂かれる思いでしたが……こうした場所が残されていると知れて、僅かに救われました』
 『貴女にも聴こえているでしょう? さざ波の声、鳥や虫達の歌、風の囁き、植物達の語らいが。此処には無駄な物など一切無く、全てが輪を描いて繋がっている。あらゆるものが産まれ、生きて、死を迎えても地へ水へ還り、新たな命を育む糧となる。途切れることなく続き、されど二度と同じ旋律は辿らない、限られた刻の多重奏。私は、これ以上に美しい音楽を知りません』

 「…そうか。神父様が言ってた音って、命の声そのもの、なんだ」
 「そう。歪んだ旋律とは即ち、万物の悲鳴。断末魔よ。人間が幅を利かせる王都で生まれ育ったあの子にとって、人の手が殆ど入っていないネアウィック村は良い療養所になったことでしょう。……此処まで言えば解るわね? 貴女の音が私と同じく「綺麗」なのは、一聖職者として……あの子の親友として少々残念だったわ。叶うなら貴女に、彼を孤独から救ってもらいたかったのだけど」
 狂った音は、手前勝手な好意や欲や害意の表れ。
 つまり「音が綺麗」な自分の本心には、彼に対する興味が全く無い。
 彼を見ていたい、近付きたい、知りたいと思う程度の関心すら無い人間に、彼は決して救えない。
 「……すみません」
 (これから聖職者になろうとしてる人間が、近くで苦しんでる人に気付けなかったとか……いや、気付けと言われても、相手が相手だけに難易度が高すぎるけども! でも、考えてみれば誰もが苦悩を表に出してる訳じゃないし、平気な顔して抱え込んじゃう人って結構いるよね。多分私は……アリア信徒は、アーレスト神父みたいな人達の苦しみにこそ気付いて寄り添えるようにならなきゃいけないんだ)
 世界の意識を変えるには、上っ面だけの救済じゃ意味が無い。
 「元はと言えば人間に好かれる事を恐がってるアーレストが悪いんだから、貴女が謝る必要は全然無いわ。私だって、あの子が唯一自発的にしつこく纏わり付いていた相手が男性だった時点で匙を投げてるし」
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