Side Story
少女怪盗と仮面の神父 50
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は人好きのする笑顔で」
「それがあの子を護っている「仮面」の一つよ」
持っていた茶器をローテーブルの上に置き、バルコニーと部屋の境にある大きなガラス窓の傍らへ移動するプリシラ。
「貴女、この音にどれだけ耐えられる?」
形良い爪先の実体と影が透明な板の表面で重なり……
きゅ…… っきぃいいいいいーーっ
「ふ……っ、ぎゃああぁぁあっ!!」
と、室内の空気を無残に引き裂いた。
咄嗟に両耳を塞ぐも、全身を震撼させる不快な音は耳奥に貼り付いてなかなか消えない。
「私達には聴こえないけど、アーレストが生まれた時からずっと、彼を視界に入れた人間の大半……主に女性が、こういう音をいきなり大音量で出すんですって。しかも、一度目二度目と顔を合わせる度に音質が酷くなるらしいわ。年齢を重ねるにつれてある程度は防御できるようになったみたいだけど、それでも、生きている限り全てを防ぎ切るのは不可能よ。彼以外の誰かに反応した音まで拾ってしまうと言うし、生れつき耳が良いあの子には毎日がとんでもない苦痛でしょうね。だからこそ、誰にでも等しく作り物の笑顔を振り撒いて期待の芽を摘み、必要以上の接触を拒んでいるの。多くの女性は自尊心や自衛心がとっても高くて、自分だけを特別視してくれないと解った途端、相手を観賞「物」扱いして距離を置くか、「こっちから願い下げだ」と勝手に身を退いてくれるから」
「……こんな音……生まれてから、ずっと……?」
頭痛にも似た鋭い痛みの所為で、細めた両目に涙が滲む。
ふと、教会のアプローチに一人で佇んでいた彼の顔色を思い出した。
(あれは……もしかして、女衆から離れて耳を休めてたの? でも)
「村の音は心地好いし、私の音は綺麗だって……」
「遥かな昔、世界はとても小さな鈴の連なりで編まれ、その繋がりと個々の音に依って美しい旋律を奏でていた。けれど、いつかの時代、何処か一か所に狂った音が雑じった所為で、其処から歪んだ旋律が全体に拡がってしまった。アーレストが産まれた時にはもう手の施しようが無いほど歪んでいた為に、彼は時間も場所も選ばず「助けて」と悲鳴を上げ続ける羽目になった。睡眠時以外何をどうしても泣き止まない赤子の世話で心身共に衰弱してしまったクレンペール家一同は、王妃陛下の助言に従い、彼を王城へ預けてみた。彼は、人の出入りが制限された王城の片隅で漸く安らぎを得たそうよ。そうしていつしか意思が芽生えると同時に、歪みの原因の半分以上が人間の感情だと気付いてしまった」
「旋律を歪ませた原因の大半が、人間の感情?」
「人間の独占欲や支配欲や害意……自分以外の生命の在り方を自分に都合良く定めたい・縛り付けたい、自分だけを見て欲しい、自分と同じかそれ以上の想いを返して欲しい、自分の気持ちに添った言動だ
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