アージェント 〜時の凍りし世界〜
第三章 《氷獄に彷徨う咎人》
皇帝
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た。
しかし、氷雪のこれまでの人生は苦痛の連続で、おそらくこれからもそれは同じだった。彼はどうしても妹に言うことが出来なかった。「生きて欲しい。」そんな当たり前の事さえ、彼は望めなかった、望んではいけなかった。
故に彼は訊ねた。生きたいのか、と。彼女が否と言うのであれば、せめて苦しまぬ様に、と。
自己満足は百も承知。それでも彼は見ていられなかったのだ。今にも融けて消えそうな、粉雪の様な妹の姿を。苦痛に喘ぎ、それでも生きる事を強要される姿を。
しかし、彼女は答えた。「生きたい。」と、短くても、はっきりと答えたのだ。
その、誰もが抱く余りにもささやかで、当たり前の望み。彼をこの4年間支え続けたのはそんな小さな望みただ一つだったのだ。
「………明日、いや、もう今日か。それで全てケリが着く。人事は尽くした。後は天命を待つだけ……だが、どうにもこの天命とは折り合いが悪いからな。」
暁人は独り呟くと、部屋の天井を睨む。その先、満天の星空の向こう、世界の外側にいる何かに、宣戦布告するかの様に決然と告げる。
「運命とやら、阻みたければ阻むといい。その全てを、永久凍土の底に沈めてやる。」
???
暗い部屋、そうとしか表現出来ない場所に男、ドウェル・ローランはいた。周囲には何かの機械の駆動音が響くが、明かりは無く、それが一体何なのかを知る術は無い。
「………さて、いよいよですか。」
彼の声には幾分か興奮の色が見える。普段の穏やかな表情を崩さぬまま、その眼だけがギラギラとした輝きを帯びている。
「……暁人、君の作戦は素晴らしい。これまでの行動全てが伏線となり、知らぬ間に舞台を整えている。だけどね、君にしては珍しい、初歩的なミスを犯している。気付いているかな?」
誰に聞かせるでもない独白を続けるドウェル。その姿は教え子を諭す教師の様でもあり、敗者を嘲笑する悪魔の様でもあった。
「………君はね、人を信じ過ぎたよ。だから、私には勝てない。全てを裏切れる私には、ね。」
暗い部屋に、ドウェルの低い嗤いが響く。不吉な兆しを孕むそれは、しかし彼以外の何者にも聞かれる事なく闇に消えていった。
吹き荒れる吹雪は、戦う者達の迷いを、思いを、皆等しく雪の下に埋めてしまう。
刻一刻と迫る運命の時、その先のシナリオを描くのは果たして………
新暦71年1月10日、決戦の幕が上がる。
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