アージェント 〜時の凍りし世界〜
第三章 《氷獄に彷徨う咎人》
皇帝
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
彼の正体が割れた段階から予想がついていた。
しかし、こうして考えた時、皆は共通の疑問を抱く。それは「何故」というものだ。
何故、暁人は自身の生存を隠したのか。
何故、氷雪の治療にスノウスフィアが要るのか。
何故、暁人は管理局を信用しないのか。
この推論には、暁人にスノウスフィアの強奪、という手法を選ばせた動機が完全に欠如している。何故、どうして彼は、犯罪者に身をやつす道を選んだのか、その一切は未だ、深い深い雪のヴェールに覆われたままだった。
白峰家 別邸
「………ッ!?」
嫌な悪寒を感じ、暁人は跳ね起きる。ベッド脇の棚にあるハボクックを鷲掴みにして周囲を警戒するが、特段、異常がある様には思えない。
〈……What has happened?〉
ハボクックの声に暁人は、自身が夢を見ていた事に気付く。四年前のあの日、運命の残酷さに嘆き、忌まわしき怪物を憎悪し、そしてーーー何より己の無力を責めたあの日の夢を。
「……ああ、そうか。今日は……」
零時を回り、日付が変わって1月10日。17年前に暁人が産まれた日であり、4年前に全てを喪った日でもある。
「……あれから4年、か。出来る事は全てやった。力を付け、技を磨き、知識を重ねた。」
氷雪と共に隠れ暮らしていた4年間は、暁人にとって決して幸せな物ではなかった。死にかけるまで鍛練を積み、身体を休める間に知識を詰め込み、それでいながら氷雪の看病は欠かさなかった。
常人なら狂人、廃人になってもおかしくは無い4年間、しかし暁人には狂う事も、諦める事も許されなかった。何故なら、氷雪がいたからだ。
あの日から数日が経ち、氷雪が目を覚ました時、暁人はあの日に起こった全てを、包み隠さずに教えた。当時の氷雪は未だ6歳で、全てを理解する事など出来なかった。それでも、年齢不相応に聡い彼女は、両親が死んだ事は理解できた。そして、その原因の一端が自分にあった事も。
それから3日間、氷雪は何も口にせず、ただただ泣き続けた。心身は目に見えて衰弱し、元々弱い氷雪の身体はたちまち危険な状態に陥った。
そんな時に、暁人は訊ねたのだ。「まだ、生きたいのか?」と。
暁人は氷雪の眠る数日の内に、己をひたすらに責め続けていた。なんたる無様かと。絶対者となるべく産み出された筈の自分が、家族を守れず、妹一人救う事すら出来ない。自分はなんて無力なのだ、と。
彼は思った。存在意義を全う出来ない自分に、価値などあるのだろうか、と。
彼をこの世に留めたのは、留めさせたのは、偏に氷雪の存在だ。己が守るべき唯一の存在、彼女が生きている限り、自身はその責任を負わねばならない。その一心が彼を生かしてい
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ