第1部 着鎧甲冑ヒルフェマン
プロローグ
第1話 物語の始まり
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樋稟、どこじゃ……?」
「お、おじいちゃんッ!? わ、私はここよッ! 今助けるからねッ!」
テーブルの下敷きにされていた祖父も助け出し、残るは両親だけ。唐突に姿を消した、兄同然の青年を案じつつも、少女は祖父を静かに寝かせ、立ち上がる。
その時だった。
「樋稟ちゃん、さすがだね。僕のおもちゃをこうも弄ぶなんて、さ」
艶の乗った美声が、少女の耳に届いたのは。
「剣一……さん、なの? これは、どういう……!?」
狼狽する彼女の視界に映る光景は、この戦いの実態を物語っているようだった。
少女が纏うスーツとは似て非なる、黒鉄の鎧で身を固めた一人の青年。その両腕には、彼女の最愛の両親が抱かれていたのである。
「君のお父様に破門にされてから、ずっと考えてたんだ。着鎧甲冑を廃らせないためには、僕は何をするべきなのか」
「剣一ッ! お主、本気なのかッ!」
「本気でなければ、ここまでする道理などありませんよ。稟吾郎丸さん」
祖父の怒号にも全く同じず、青年は涼しげな眼差しを仮面越しに少女へ送る。
「は、破門? そんな話聞いてないし……嘘よ……嘘よね、そんなの。剣一さん、違うんですよね? 何かの間違いなんですよね? だって、私達ずっと、兄妹みたいに……」
一方、彼女は未だに状況の理解を拒もうとしていた。自分が案じ続けていた、兄のような青年。その彼が、自分の両親を連れ去ろうとしている。
敵を打ち倒せる力はあっても、その現実に堪えられる強さを持てる程、この時の彼女はまだ大人ではなかったのだ。
「樋稟ちゃん。世の中にはね、正しいことのために間違ったことをしなくちゃならない、そんな矛盾だらけなことだってあるんだよ」
「わかりません……わかりません! 何を言ってるんですか剣一さん! それに、その姿は何なんですか!? 早くお父様とお母様を放してッ!」
「……なら、君の手で取り返して見せるんだ。それが出来なければ、君達は何も救うことは出来ないんだよ」
少女の縋るような叫びも、仮面に隠れた涙も、青年の心を揺るがすには至らない。
彼は捨て台詞のような一言を最後に踵を返すと、そのまま壁を蹴り砕き――外の世界へと飛び出してしまった。
「……何よ、何なのよそれッ! 嘘でしょッ!? 剣一さんッ! 剣一さぁぁぁんッ!」
その影を追うように、少女は青年の後を追おうとする。が、彼を追って祖父達を残すわけにも行かず、結局は彼が開けた穴に向かって泣き叫ぶことしか出来なかった。
「『着鎧甲冑を廃らせないため』、か……。剣一の奴め、愚かなことを……!」
そんな彼女の遥か後方で、自らの祖父が歯を食いしばっていることにも気づ
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