第一部 出会い
伏籠
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いていないのだろうか。なんとも彼女らしいことだが…
視線をそらさずにじーっと見つめる。彼女の反応を何一つ見逃さないように。
彼女は育った境遇ゆえか、気配や不調をごまかすのが上手い。
反らされることなくむけられた視線に観念したのか、彼女が小さくため息をつく。
「……ごめん。今朝から、体がだるい」
風邪をひいているらしいことを告げたら即行でドラゴンの領域を抜け、街へ向かおうとした曹操。
だけど、途中で雨が降り出して。仕方がないからたまたま近くにあった放棄された山小屋に避難して。
少しだけ建物は傷んでいたけど、風雨がしのげるならどうでもいいかなって。
曹操は今、少し外している……結局迷惑、かけちゃったな。
外は先ほどから降り出した雨の音。しとしとと降る音。冷たい雨……
「あめ……いやだなあ…」
熱に浮かされる頭で小さく呟く。あめはきらい、だって――――思い出してしまうから。
あの家での日々を、一人の辛さを、「始まりのあの日」を。
―――体を濡らす雨、視界を染める赤、響く絶叫、狂ったような笑い声。そして、身を切り裂くような…
『わたし、は………ちゃんを……たす…………だけなの』
「私のせいで」いなくなったあの子の声。
『さあ殺してしまえ。そいつはもう、人ではない。ただ人の形をした魔物だ』
「ごめんね……ごめんね」
私を助けようとしてくれたのに、死なせてしまってごめんなさい。
喪失の重さに耐えるには、一人は辛く、寂しい。
でも誰も自分のそばには来てくれない、視線を向けてさえくれない。
手を伸ばす。届かないとはわかっているけど。
熱に浮かされた思惟が解けていく。
微かな物音が沈みかけた意識を繋ぐ。視線を向けてみれば、そこには曹操の姿があった。
意識が薄れゆき、曹操に何か言ったのは確かだけど、自分が口にした言葉も判別がつかなくなって……
「――――――が、望むなら―――」
最後に、温かいものが手に触れた。
熱でわずかに潤んだ瞳が俺を捉える。
不安そうに揺れるその瞳は、常の彼女に見られないもので。傍にいないといけない気がした。
「…そーそー?」
「…なんだ」
全て聞こえていた。雨は嫌いというのも、謝罪の言葉も。
―――ここまで、弱い姿を見たのは初めてだった。
それはきっと、彼女の歩んできた壮絶な人生に起因するもので。今の俺にはどうしようもないもの。
あまりにも歯がゆい。彼女の心がまだ闇の中であることが。
「……そばに、いて?」
外見年齢より僅かに幼い声音。熱に浮かされたかのような声は、はたして彼女の記憶に残っているだろうか。
潤んだ瞳が俺を捉える。宿る光は寂しさと………わずかな渇望。
「……君が望むなら。俺が
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