暁 〜小説投稿サイト〜
俺の四畳半が最近安らげない件
窓に、窓に!!
[2/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ちが置かれている状況を『希望的観測』を一切排除して把握する必要がある。それでも過呼吸を起こしそうになり、俺はそっと口に上着の端を押し当てて息を止めた。
「『そいつ』がこの船室に巻き付いている。灯りに誘われて昇ってきたのか、網にかかったのかは知らないが、とにかくこの船に侵入した」
「そ、外の皆は…」
云わせるな。抵抗した挙句、殺されたに決まっているだろう。ジョンもロドリゲスも他の連中も、冗談がクドいが気の良い連中だった。あいつらが異形の海底生物に食い殺される様を想像するだけでもう気が狂いそうだ。
「……何か、船が傾き過ぎてないか」
ぎし、ぎし…という不吉な軋みが増え、徐々に船が右側に傾き始めた。…窓のある方向だ。
「右側から、登ってきたのか」
俺の声も震えてきた。
6人乗りの小さい漁船によじ登って来た大ダコが甲板の連中を薙ぎ払い、俺達の船室を締め上げているとかすごい馬鹿みたいな情景だが、俺達は嫌ってほどその真っ只中に放り込まれている。これが俺達の結論だ。
やがて、船室の軋み音が大きくなってきた。時折『ばきっ』と何かが折れるような音がする。
「ど、どうしよう…!」
志村が引きつった悲鳴を上げた。
「しっ!…元々タコにはそこまで攻撃的な習性はないはずだ。外の連中が襲われたのは恐らく、先に攻撃したからだろう」
「だったらフレンドリーなアプローチでいったら襲われないのか!?」
「フレンドリーなアプローチって何だ!!襲われない保証はねぇよ、ただこの船の人間を積極的に皆殺しにする程の気持ちで巻き付いてんじゃないだろうってことだ!…だから俺達がここに居ることを悟られなければ…」


船室が大きく、みしりと軋んだ。


「…気づかれてないか…!?」
「ううーむ……」
一応、もう一度窓を塞ぐ吸盤を確認する。吸盤自体はぴくりとも動かない。こんなに軋み音が酷くなっているのに、これはどういうことなのだろうか。
「た、助けを呼べばいいんだ!!」
志村がやおらポケットからスマホを取り出し、耳にあてた。
「も、もしもし警察ですか!?こちら栄光丸です、あ、ええと船舶の!!あのですね、実はですね、海の上で巨大タコに襲われて船室ごと触手で締め上げられ」
「まて志村、その説明は駄目だ!!」
慌てて止めるも時既に遅し。
志村は涙目で沈黙するスマホを握りしめていた。
「………ガチャ切りされる寸前、超怒られた………」
「………ああ、うん。そうなるな………」
あとこの場合、連絡すべきは警察じゃなくて海上保安部とかではないかと思うんだが、俺もこの状況をどう説明すればいいのか分からない。だって巨大タコだぞ。イカかもしれんけど。タコだがイカだか分からないものに船ごと潰されかけているなどという意味不明の緊急事態を電話なんかでどう伝えればいいのだ。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ