曇天
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「……虹架? あなた、仕事じゃないの?」
「うん、そろそろ。それよりさ……」
怪訝な表情を隠さずに家の中へ入っていく母に、虹架はニッコリと応対する。VRに詳しくない母に《オーグマー》をどう装着させるかは、虹架の舌先三寸にかかっており、《オーグマー》を隠すように後ろ手に組んだ拳に嫌な汗が流れていく。母は七色に会いたくないと言っている以上、馬鹿正直に言うわけにはいかずに、今こそアイドル活動で身につけた演技力で――と、虹架は自分に言い聞かせていく。
「あ……あのね、お母さん」
「なに?」
「コレ、ちょっと付けてみてくれないかな!」
……そうして虹架が取った手段は、真正面から正直に頼み込むことだった。深々と下げた礼とともに差し出された手には、虹架の《オーグマー》が握られており、突然の申し出に母もすっとんきょうな表情を見せていて。
「……どうしたの、いきなり。知ってると思うけど、母さんはあまりそういうのは――」
「一回! 一回だけでいいから、ね?」
「……分かったわよ。どうすればいいの?」
それでも必死で頼み込む虹架の姿に折れてくれたようで、《オーグマー》を受け取ったものの使い方は分からず。そこは虹架が教えながら《オーグマー》を起動すると、起動時の『オーグマーにようこそ』の声に驚いたように、母の身体がピクリと跳ねる。
「ちょっと……驚かせたかったの?」
「違うよー。えっと、そろそろ……」
「だから、何が――」
カフェで見たセブンそっくりのジト目で見てくる母を手なずけながら、虹架は母からゆっくりと離れていく。家に《オーグマー》は虹架の分しかないため、装着できない虹架には姿を見ることは出来ないが、母には《オーグマー》を通して七色の姿が見えているはずだった。その証拠に、驚愕で目を見開いた母は――
「えっ――」
――装着していた《オーグマー》を潰すように握り締めると、そのまま床へと投げつけていた。
「……言ったわよね、虹架。こういうのはもう止めてって」
金属音を響かせながら床を転がっていく《オーグマー》に構うことも出来ずに。そして虹架を見据える母の瞳には、明らかな怒りの感情が浮かんでいた。そこで虹架はようやく、この方法を提案してくれたショウキが止めようとしていたことや、セブンがあまり乗り気でなかったことの意味を理解する。
こんな不意討ちのような真似に、母が怒らないわけがないと。
「……でも……」
「いい? 私はあの子を……七色を捨てた、親失格な女なの。もうあの子に会う権利なんてないの。分かるでしょ?」
「……だって! 七色が……七色はそれでも会いたいって!」
まるで子供に説教するかのような母の口調だったが、対する虹架も子供の
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