曇天
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「レインは《吟唱》スキルを取らないの?」
これは夢だ。レインがあの浮遊城に囚われていた時に、歌を通じて出会った友人と語り合っていた時の夢。最前線とは程遠いある中層の転移門の近く、NPCの合唱団の演奏を待ち合わせしながら聞いていれば。吟遊詩人のような格好をしたような友人から、不思議そうに顔で覗き込まれた。
「え……いやー、だってその、人前で歌うのはちょっと恥ずかしいかなー……なんて」
「えー、レインったら、私なんかよりよっぽと上手いのに」
「そ、それに! わたしはユナみたいに楽器は使えないよ!」
友人――ユナのアバターを吟遊詩人たらしめている要素の一つに、その手元に置かれた小さいハープを見ながら、レインは《吟唱》スキルを取得できない理由を語る。遂にプレイヤーにも取得条件が発生された《吟唱》スキルだったが、目の前のユナという友人以外に取得者を見たことのない理由の一つに、その発動条件の厳しさがあった。自力で楽器を弾きながら歌を紡ぎ、武器を持てないともなればこのデスゲームで持つ者などいるはずもない。
「そんな……レインとデュエットするの楽しみにしてたのに……」
「うっ……」
現実世界ではピアノを習っていたと教えてくれたユナと、小さい時に妹へ子守唄を歌っていた歌好き程度のレインでは、少々以上に差が開きすぎている。それでもデュエットしようという願いは譲らず、ユナがあからさまな演技で泣き崩れているにもかかわらず、放っておけないレインが困り果てていれば。
「ちょっと、ユナ」
「あ、エ……ノーくん遅ーい」
レインにとっては助けとなる待ち合わせ相手の声が響くと、先程まで泣き真似をしていたことを忘れたように、ユナはケロリと少年を迎え入れる。現実でも幼馴染みでもあるという彼は、そんなユナの姿にはもう慣れっこなのか、特にどうという反応も起こさずレインへと向き直った。
「すまないレインさん、ユナが無理を言って」
「ううん! それよりノーチラスくんは、どうだったのかな?」
「ノーくんならバッチリでしょ?」
「ああ、なんとか……血盟騎士団の入団テスト、合格してきたよ」
多少ながら疲れた表情が見え隠れしていたノーチラスだったが、それでも笑顔でレインたちに応じてみせる。少数精鋭だと評判の新進気鋭の攻略ギルドに、まだ二軍とはいえ入団が許可されたのだと。レインが賛辞の言葉を言おうとする前に、合格など分かっていたとばかりにユナの拍手が響く。
「ノーくん、頑張ってたもんね。おめでとう」
「……ユナが応援してくれたおかげだよ。レインさんのメンテナンスもね」
「おやおや〜? レインちゃんは二人の邪魔者ですかな?」
「そ、そんなんじゃ……」
「……分かってる。おめでとう、ノ
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