番外編 あなたにはヒミツ 〜鳳翔〜
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「鳳翔さん、こんな催し物があるそうですが……ご一緒にどうですか?」
今晩の夕食の仕込みのため、たくさんのじゃがいもの皮を剥いている時でした。弟子の赤城によく似たミイラさんが、私が仕事に勤しむ厨房にやってきて、カタカタと震えながら一枚の封筒を私に差し出してきました。
「えっと……ど、どなた……ですか?」
「あ、赤城……ですが……」
あまりに非現実的な光景に、つい間抜けな返答を返す私に、赤城によく似たミイラさんは、そう言ってパキパキと音を立てながらニヤッと笑いました。正直言って、その姿は恐ろしかったです……。
じゃがいもを剥く手を止め、タオルで一度手を拭いた後、私はミイラさんからその封筒を受け取りました。封筒は、今どき珍しく封蝋で封がされたもので、真っ赤な封蝋には戦艦の意匠のシーリングスタンプが使われているようです。
封を破り、封筒の中を覗きました。中には、クラシックコンサートのチケットと、そのチラシが一枚入っています。キレイにできてはいるけれど、どことなく手作りのあたたかみが感じられるそのチラシには、『我々太陽の戦士たちの演奏を、太陽になった気分で暖かくお楽しみ下さい』と書いてあります。大淀パソコンスクールの、あの人を思い出しました。
「赤城、これは?」
「ええ。大淀さんのところのソラールさんから頂いたものです。なんでも、ソラールさんのお弟子さんが所属しているオーケストラだそうで。チケットをいっぱいもらったと行っていました」
そう言って笑う赤城によく似たミイラさんは、見ていて本当に怖い……いや、これは本人には言えませんね……。
確かに昨日、私は智久さんのチェロを聞いて、クラシックという音楽にちょっとした興味を持ち始めています。でも、クラシックのコンサートだなんて、今まで私たちに縁のない世界。テレビや映画で見るクラシックコンサートなんかは、みんな洋装のおめかししたりしてるのをよく見ます。私が持っているのは和服だし、第一、そんなところは、私には敷居が高すぎます……。
それに、チケットに書いてある日付は今日。今日の私は、この食堂で仕事をしなければなりません。流石に今日は、無理です。
「残念ですけど赤城……というか、赤城でいいんですよね」
「はい……ずーん……」
「ご、ごめんなさい……でも、私は今日は無理ですよ」
「どうしてですか?」
「私には和服しかありませんし、第一、今日は仕事です。残念ですが、またの機会にします」
「そうですか……」
赤城によく似たミイラさんは、そういってパキパキと音を立てながら、がっくりと肩を落としました。私はそんなミイラさんに頭を少し下げた後、じゃがいもの下ごしらえに戻ろうと包丁を握ったのですが……
「今日のコンサート……普賢院さんも来るそう
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