番外編 あなたにはヒミツ 〜鳳翔〜
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でした。
それに、その曲の最中、チェロの美しい音色に乗って、あなたの声が聞こえてきました。
――鳳翔さん。あなたが好きです。
だから私はそれに応えようと、お味噌汁に乗せて、自分の気持ちを伝えますと約束したんですけど……
気付いてましたか? 『あなたが好きです』とチェロに乗せて告白してくれたあなたの姿が美しくて、私はずっと、あなたに見とれていたんですよ? 美しいあなたが奏でるチェロの音色があまりに優しくて、ずっと聞き惚れていたんですよ? それは、演奏が終わった後、思わず拍手を忘れてしまうぐらい、私の心を釘付けにしていたんですよ?
知ってますか智久さん。私は昨日の夜、チェロを弾くあなたの姿を思い出して、ずっと胸がドキドキして眠れなかったんですよ? お布団の中で、あなたの言葉を何度も何度も思い出して、ずっと胸が高鳴っていたんですよ?
『わ……わ……! 智久さんが……智久さんが……わ……!』
『と、智久さんが……私に、“好きです”って……わ……!!』
こうやって、あなたの為にお味噌汁を準備している間も、本当は集中しなきゃいけないのに、あなたがお味噌汁を飲んでくれる姿が目に焼き付いて……あなたの声が耳に届いて……あなたの言葉が心に響いて、ずっとドキドキしてるんですよ?
……でも、あなたにはヒミツです。
絶対に、このことをあなたには話しません。
だって……その分、あなたには、こう伝えたいですから。
――私は、あなたをお慕いしています。
水筒の蓋をきっちりとしめ、すべての準備が整いました。お重も充分に冷めたようです。私は急いでお重を包み、私の横でずっと一部始終を見ていた間宮さんに聞きました。
「他のみんなはどうしたか知ってますか? 赤城たちはもう出ましたか?」
「あれ……さぁ……もう出たんじゃないですか?」
慌てて時計を見ました。時計の針はすでに6時10分前。急がないと、せっかく準備したお重をみんなで食べる時間がなくなってしまいます。
そして、せっかく気持ちを込めたお味噌汁を、智久さんに飲んでもらう時間が無くなってしまう。急がないと。
「では間宮さん。行って来ます!」
「はい。いってらっしゃい。がんばってくださいね」
「はいっ!」
準備室で急いで着替え、私はお重と水筒を持って、会場までひたすら駆けました。
智久さん。待っていて下さい。
今、あなたの気持ちに応えます。あなたに、私の気持ちを込めたお味噌汁を届けます。
あなたには、ヒミツにしていることがいっぱいあります。そしてそれは、これからもずっとヒミツです。
だって、そのヒミツをこっそり打ち明けるよりも、あなたに伝えたい言葉が、私にはあるから。
智久さ
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