番外編 あなたにはヒミツ 〜鳳翔〜
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始めました。私はそのタイミングを逃したくなくて、今のうちに水筒を準備しておくことにします。いくら保温性の高い水筒といえども、今はとても冷たい。だからポットのお湯を注いで一度、水筒を温めることにします。コポコポと心地良い音が水筒から聞こえ、そして水筒全体がぽかぽかと温まってきました。この瞬間が、私はとても好きです。
剣術大会の日のこと。あなたは覚えてますか?
『智久さんはー……元々、争いや武道には向いてないのかもしれませんね』
『うう……そうですか?』
『はい。その分、智久さんは優しいということです』
『どうしてですか?』
『だって……』
あのあと、私が何て続けたかったかわかりますか?
――竹刀を握るあなたより、
美味しそうにお味噌汁を飲んでくれるあなたの方が、
私は好きですから
本当は、こう言いたかったんですよ? とてもキレイでかわいい首根っこを冷たい手でつっついて、恥ずかしさをごまかしましたけど。
……あ、でも、『速さが命』『研鑽を重ねたその先が向き不向き』というのは、本当のことですよ? あまりにあなたが真剣に聞いてくるから、私も真剣に答えました。本当は、『私はお味噌汁を飲むあなたの方が好き』と最後に付け加えたかったですけどね。
でも、これもヒミツです。
火にかけているお味噌汁が、周囲に素晴らしい香りを漂わせながら、少しずつ少しずつ、ふつふつと煮えばなになってきました。水筒の中のお湯を捨て、しっかりとお湯を切った後、お味噌汁の火を止め、そのまま、水筒に注ぎます。コポコポと可愛らしい音を立て、水筒の中に、私の気持ちが篭ったお味噌汁が注がれていきます。
……智久さん。昨日の演奏会の時のこと、覚えてますか?
『……じゃ、じゃあ! いつも美味しいお味噌汁を頂いているお礼……ということで!!』
あなたがそう言った時、私が口をとんがらせてちょっとだけご機嫌ななめになったこと、気付いてましたか?
――私は、あなたに飲んで欲しくて作っていたのに……
あなたがお味噌汁を飲む姿が見たくて、お味噌汁をいつも作っていたのに……
お礼が欲しくて、作っていたわけじゃないのに……
とっても自分勝手な言い草ですよね。しかも、あなたはお礼にチェロを弾いてくれるって言ってくれたのに、そんなことでへそを曲げるだなんて、おかしいですよね。私自身、そう思いますもん。なんで自分があんなにへそを曲げたのか、自分自身が不思議だったんですもん。でも、気付いて欲しかったな……私がごきげんななめになった理由。
……でも、あなたが気付かない限り、これもヒミツです。
その後の演奏は、ほんとにもう、素晴らしいの一言でした。静かで優しく……まるであなたのような、素晴らしい演奏
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