10. あなたと二人で、いられる幸せ
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でも。
「ありがとうございます! ……でも」
「?」
「あとでみんなと一緒じゃなくて、いいんですか? 僕だけ、先に頂いても、いいんですか?」
そうだ。このお味噌汁は、晩ご飯の一品。確かに今飲まないと冷めてしまうのかもしれないけれど……そんな大切なもの、今飲んでもいいのかな……しかも僕だけ……。
僕の葛藤をよそに、鳳翔さんによって目の前に持ってこられたわかめのお味噌汁は、周囲にいい匂いを漂わせながら、僕の鼻と胃袋を挑発し続ける。『ほーら智久さーん。私はおいしいですよー?』というお味噌汁の声が、CV鳳翔さんで聞こえてくるようだ……。
「……智久さん」
「はい」
「このお味噌汁は、あなたに飲んでいただきたくて、作ったものです」
「はぁ……」
「昨日言ったでしょ? 何度でも何度でも、お味噌汁であなたに気持ちを伝えるって」
「う……」
「昨日の智久さんのチェロに対する、私の答えがこれです」
湯気の向こうの鳳翔さんが、ふんわりと笑う。
その笑顔に胸がドキンとし、胸の辺りがほんの少し、むずむずとくすぐったくなる。
でもそれが、とても心地よくて……ずっと、このまま時が止まって欲しくて。
「だから、飲んで下さい。あったかいうちに。……私の気持ちを」
周囲の人たちが、少しざわざわとし始めた。『あれ? すごくいい匂い……』『あ……なんだかすごく、味噌汁飲みたい……』『なぜだろう……涙が……』という声が所々から聞こえてる。鳳翔さんのお味噌汁の香りが周囲に漂って、その人たちのお味噌汁中枢を刺激しているんだろう。
「……じゃあ、いただきます」
「はい。どうぞ」
周囲の声に惑わされず、僕は、鳳翔さんの気持ちが篭った味噌汁を受け取り、熱い内に、静かに……
「ふーっ……ふーっ……」
「……」
「ずずっ……」
ゆっくり、じっくりと、お味噌汁を味わう。
「……」
「……」
「……」
「……ほっ」
途端に、心地いいため息がこぼれ、僕の全身が、リラックスしはじめた。小さな炎がぽっと点いたように体の芯が暖かくなり、その心地よさに、意識が途端に緩み始める。
そっか。これが“安心する”ってやつか。
僕はいつの間にか、鳳翔さんに……鳳翔さんの心に、安心を感じるようになっていたんだ。
――私は、あなたをお慕いしています
なんだかそんなことを鳳翔さんから言われた気がして、慌てて鳳翔さんの目を見るが……
「……」
鳳翔さんはただ微笑み、僕の顔を眺めているだけだった。
「鳳翔さん」
「はい?」
「美味しいです。……とっても、美味しいです」
「ありがとうございます。私も、とてもうれしいです」
「僕も、とてもうれしいです。……あ
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