9. あなたに気持ちを届けたくて
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っと閉じていた目を開いた。途端に、オレンジ色の光が僕の目を刺激する。
「鳳翔……さん……」
「……」
眩しいオレンジ色の夕日の中、僕は鳳翔さんを見た。伝わったのだろうか……僕のこの気持ちは、鳳翔さんの心に、伝わったのだろうか……再び胸がバクバクと音を立て始めた。喉が息苦しい……
「ぼ、僕の……演奏は……」
「……」
「いかが……でしたか……?」
オレンジ色の夕日の中、鳳翔さんは、まるでお風呂上りの時のように、ほっぺたをほんのりと紅潮させ、ただ、ぽうっと僕のことを見つめている。僕の言葉に対する、鳳翔さんの反応が怖い……もし、何も伝わってなかったら……もし、僕の気持ちを拒絶されたら……
「あ、あの……」
「……」
これ以上、この沈黙に耐えられない……告白が終わった僕の心が、この状況に悲鳴を上げ始めた時。練習室に、パチ……パチ……という、とても小さく、そして拙い、拍手の音が鳴り響きはじめた。
「……へ」
その拍手が少しずつ大きくなる。手を叩いていたのは、夕日に照らされた鳳翔さん。ぽうっと上気した顔のままいつの間にか立ち上がり、パチパチと拍手をしてくれていた。
「……思った通りでした」
「……?」
「思った通り……智久さんのように、とても優しい……とても……とても素敵な、演奏でした……」
「……ありがとう」
……よかった。僕は、鳳翔さんが思い描いていた通りの演奏ができていた……その喜びが、じんわりと、胸に広がる。
でも、気持ちは? 『白鳥』に乗せた僕の気持ちは、鳳翔さんに伝わったのだろうか……? 僕の口が、『言うな』という僕の意識の制御を離れて、勝手に言葉を紡ぎ始めた。
身体も勝手に動き出した。チェロのエンドピンを引っ込めてその場に置き、僕は立ち上がって、鳳翔さんの元に歩み寄った。
「……鳳翔さん」
「はい」
「……伝わりましたか? ……『白鳥』に乗せた僕の気持ちは……」
鳳翔さんがハッとする。少しだけ目を見開いた後、夕日の中でもわかるほどほっぺたを赤く染め、恥ずかしそうにうつむき、拍手していた両手をもじもじと動かした。
「あの……」
「……」
「……僕は、あなたが……」
「あ、あの……!!!」
音だけでなく、言葉で自分の気持ちを伝えようとした僕の口を、鳳翔さんは、自分の言葉で強引に塞いだ。その後、僕の前で肩を小さくし、しばらくもじもじと全身を動かした後、僕の大好きなふんわりとした笑顔を僕に向けて、こう言った。
「……あの」
「はい」
「……また、聴かせて下さい。あなたの気持ちが篭った、優しくて智久さんらしい、素敵な曲を」
「へ……」
僕ははじめ、鳳翔さんの言葉の意味が分からなかった。これは、体のいい拒絶の言葉
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