9. あなたに気持ちを届けたくて
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礼を、鳳翔さんはふくれっ面で受け取った。それが何を意味するのか……僕にはさっぱり分からない。でも、すぐに期限が直ったみたいでふくれっ面は収まったから、心配するほどのことではないようだ。
「智久さん」
「はい?」
「それで、今日の曲目は何ですか?」
弓を取り、譜面に目をやる。曲目は決まっている。ここのところ、僕がずっと練習をしていた曲だ。優雅で美しく、それでいてどこか楽しげで、優しい……シンプルで僕みたいな初心者にはうってつけだけど、だからこそ、奏者の腕と気持ちが如実に表れる、僕が、鳳翔さんに気持ちを伝えるのにふさわしい曲。
「作曲サン=サーンス、『動物の謝肉祭』の13曲、『白鳥』です」
「13曲もあるんですか?」
「いえいえ、13番目の曲だよ、という意味です」
途端に『へぇえ〜』とうっすらと笑顔を浮かべた鳳翔さんに癒やされ、僕は、弓を弦に当てた。
目を閉じ、最初の音をイメージする。心を研ぎ澄ませ、右手の弓と左手に感じる一弦に、意識を……気持ちを、乗せた。
――大丈夫だ
固唾を呑んで見守る鳳翔さんの視線を感じながら、僕は、目を閉じたまま、弓を動かした。
「……」
「……」
出だしは、静かに。少しずつ盛り上がり、同じフレーズをもう一度……。
「……」
鳳翔さん。あなたが好きです。
あなたのお味噌汁を飲むことが……あなたからご飯を受け取る時、あなたと二言三言、言葉をかわす時間が、僕には、とても大切な時間でした。あなたの言葉は、僕にとって、星空のようにキラキラと輝くものでした。
曲調がほんの少しだけ変わる。まるで告白への不安と恐怖に襲われた僕のように、ほんの少し、曲調に、影が落ちる。
鳳翔さん。こんな僕に対して、あなたは『優しい』と言ってくれました。『あなたのチェロは、あなたのようにきっと優しい』と言ってくれました。
あなたは、試合でロドニーさんに負けた僕に、手厳しいけど、とても誠実に向き合ってくれました。真摯に、言葉を選んで、僕を導いてくれました。冷たい氷を準備して、僕のたんこぶを冷やしてくれた優しさが、僕はどれだけうれしかったことか……最も、そのあと冷たい手で、僕の首筋をつっつくというイタズラをしてくれましたけど……でもその時のあなたは、誰よりもキレイで、尊い後ろ姿を見せてくれました。
曲が終わりに近づく。最初のフレーズをもう一度繰り返す。弓に静かに気持ちを込め、自分の心を、音に乗せて、僕は鳳翔さんに気持ちを伝える。
もう一度、言います。
鳳翔さん。僕は、あなたが好きです。あなたのことが、好きです……。
………………
…………
……
僕の告白が、終わった。
「……」
「……」
演奏中、ず
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