9. あなたに気持ちを届けたくて
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ールさんの激励の言葉が、聞こえた気がした。
「ソラールさん……」
「?」
「あ、ごめんなさい。これ、お返ししますね」
「はい」
鳳翔さんにポストカードを返し、僕は彼女を、たった一つだけ準備された、観客席へと案内した。上等な椅子ではないけれど、今日、鳳翔さんのためだけに準備された、特別な席。
「はい、どうぞ鳳翔さん」
「はい。ありがとうございます」
鳳翔さんが据わったのを確認して、僕は自分の席に戻り、左手でチェロを立たせ、支える。その間鳳翔さんは、落ち着かないように周囲をキョロキョロと見回した。招待状には何も書いてなかったから、観客が自分だけだとは、まだ気付いてないようだ。
「あの……智久さん?」
「はい?」
「他の皆さんは?」
「いません」
「ふぇっ!?」
途端にうろたえる鳳翔さんの姿が、なんだかとてもおかしい。
「ロドニーさんとか、仲よかったですよね?」
「ええ」
「天龍二世さんとか……」
「来ません」
「で、でも……」
顔を真っ赤にして、『みんなはどうした?』と聞いてくる鳳翔さんは、本当に新鮮で、こんな素敵な人にこんなことを言うのも何だけど、その様子は、とてもかわいらしい。
「……今日の発表会は、鳳翔さんのための、発表会です」
「……へ?」
「剣術大会の日、覚えてませんか?」
「……あ、あの、みんなでご飯を食べた……」
「そうです。あの日鳳翔さんは、僕のチェロを聞いてみたいと言ってくれました」
「……」
「ですから今日は……鳳翔さんに、僕のチェロを、聞いて、欲しくて……」
さっきまでは胸がバクバクしていたけれど、比較的頭はクリアだったのに……いざ、鳳翔さんに『聞いて下さい』と言おうとすると、とたんに胸を生ぬるい風か吹き抜ける。
「……ッ」
「?」
「聞いて、……欲しくて……」
「大丈夫ですか?」
――大丈夫だ普賢院智久
「……は、はい。あの日、ご飯を作ってくれたお礼に、僕の演奏を聞いてもらえればと、思いまして」
「そんなっ! あの日のお昼ごはんは、大会に出てくれたお礼なのにっ!」
違うんです鳳翔さん。お礼だけじゃないんです。……僕はあなたに、気持ちを伝えたいんです。
「……じゃ、じゃあ! いつも美味しいお味噌汁を頂いているお礼……ということで!!」
普段の五分の一ぐらいの回転数の頭で、なんとか思いついた口実。それを聞いた鳳翔さんは、なにか言いたげに口をもごもごさせたあと、不満気に口をぷくっと膨らませ、僕から目を逸らした。ホント、今日は今まで見たことない鳳翔さんの顔が、色々と見られてとても楽しい。顔、真っ赤っかだし。
「……そ、そういう、ことなら……」
「ありがとうございますっ!」
僕のお
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