第一話
[1/3]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
酷い母親だった。
父さんを捨てて、他の男の所に行きやがった。僕の父さんは確かに奥手で気弱な人かも知れないけど、僕らのことを第一に考えてくれてたじゃないか。
可哀想な父親だ。
母さんに逃げられて、男手一人で僕を育てようとしてくれた。仕事もあって忙しいだろうに。
そして、親不孝者な僕、神谷 大輝(かみや だいき)だ。
僕はそんなことを考えながら、殆ど変わることの無い窓の外の景色を見る。毎日変わらない木と、たまにその木に止まる鳥。僕は毎日それらを見ていた。最近はやけに五月蠅い蝉の声を聞いていた。
「…………はぁ。」
僕は溜め息をすると、ベッドに寝転がった。外の景色を見るのに飽きたからだ。
…………ここに来てからもうすぐ三ヶ月になろうとしている。
真っ白なカーテン、たいして面白くないテレビ。毎日が退屈で仕方ない。僕と同じくらいの年の子なら外で遊んだりするのだろう。
でも、僕にはできない。
所謂病気ってヤツだ。
小児がん。
…………担当医の先生は、ハッキリ言ったさ。
『長くない』って。
ふぅん、って思った。
あー、僕はもうすぐ死ぬんだって、案外すんなり受け入れることができた。勿論、それは僕だけの話であって、父さんはすごく泣いた。
ごめんなって、僕に謝るんだ。
別に父さんのせいなんかじゃ絶対に無いのに、なんで謝るのか僕には分からなかった。
そして、担当医の先生は僕にこんなことを聴いてきた。
『ちょっとでも長く生きるか、人らしく死ぬか。』
僕は少しだけ悩んだ。あんな母親に育てられたせいか、僕はだいぶひねくれた性格になってしまっているらしい。友達と言える人が殆ど居ない。
だから、人として生きるってのはやめた。ちょっとでも長生きしようと思った。
なぜか、父さんはホッとした顔をしていた。
父さんは、毎日ちゃんとお見舞いに来てくれる。色んな本を買ってきてくれたりしてくれる。本は嫌いだけど、父さんのことは嫌いじゃないから、ありがとうと言って全部読んだ。
父さん以外には…………一人しか、来てくれない。
「こんにちは、どう?調子は。」
そいつは、ナイスタイミングでやって来た。
カーテンのスキマからひょこっと顔をだしたこいつは、篠崎 唯(しのざき ゆい)。僕の幼馴染みで数少ない僕に話しかけてくる奴だ。腰ぐらいまで伸ばした髪に、メガネ。さらに、小さい頃から気に入っているカチューシャを付けている。
「いらっしゃい、今日はだいぶ楽だよ。」
僕はそんな風に言いながら体を起こす。唯はベッドの側に置いてあるイスに座る。
「うん、顔色もよさそうだ
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ