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第26話 陸軍長官の正妻と幼馴染の妾 Ev09
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一人寝ができなくなったという噂とは……少し違うんだ」

「平良は軍令部総長が、海軍長官の悪影響を受けたと嘆いてましたが?」

「最初は私もそうだと思ってた。けど違う。
 たぶん伏見自身も気づいてない。
 普段は昔よりお調子者でお気楽になっただけだと思ってたが、
 ……あいつは目も覚まさずに悪夢にうなされて、
 私を縋るように抱きしめながら震え続けるときがあるんだ」

「そんなっ!?」

「悪夢の中で譫言を呟くんだ。
 海賊……反乱……災害……CORE……不祥事……敗北……戦死……崩壊……破棄……」

「それはっ……まさか……」

「他には秘書官の遠藤中佐も知ってる。戸塚軍医にも相談した。
 軍医の見立てでは夢の中で未来をシミュレーションしてるそうだ。
 伏見は軍令総長として様々な情報を集め、多角的に分析し、情勢を予想してる。
 満州会戦以降の大戦の推移分析においては神懸かり的な的中率だ」

「はい……昔から、どこか、ずっと遠い未来を見つめているような方でした……」

「伏見は普通の人間よりも、ずっと未来が見えてしまう人間なんだ。
 合理的な奴だから楽観的な感情なんて挟まない。
 常に誰よりも最悪のケースを想定して、
 何があっても大丈夫な良いようにと準備を怠らない奴だ。
 伏見の情報分析についていける人間なんて一人もいない。
 一人で、一人だけで、大日本帝国の将来を背負って、
 頭の中で、夢の中で、シミュレーションを続けてるんだ。尋常じゃない」

「……私は……自分のことばかりで……何て愚かな……」

「私だって一人の女だ。
 好いた男が他の女と寝ることに思うところは当然ある……
 破廉恥長官のように誰でもベットに気軽に誘い込むような相手と婚約なんてしない」

「閣下……」

「伏見のことを幼いときから知ってて、今でも慕ってくれて、
 あいつのことを本気で素敵だと思ってるこそ、恥を忍んで話してるんだ。
 頼む、伏見を助けてやってくれ」

「そんな……頭を上げてください……もったいないお言葉です」
 
「誰にだってこんな話をするわけじゃないんだ。
 私を正妻として認めてくるなら……一緒に伏見を支えて欲しいんだ」

「本当に、本当に、もったいないお言葉です……ありがとうございます」

福原は瞳を潤ませながら山下に向かって深々と頭を下げた。

福原いずみ→☆☆☆
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