人狩りの夜 1
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狙い通りに命中し、暈穴を点かれた衛兵は昏倒。
シムラ(仮)のほうも声も無く倒れたが、こちらは秋芳の仕業ではない。女の手が素早くひるがえって耳の下を打ち、気絶させたのだ。
実に鮮やかな手並みであった。
「そこにいるのはだれ?」
静かだがよく通る声が女の口から放たれる。
「ホー、ホー」
「梟は銅貨を投げ飛ばしたりはしないわよ」
隠形してやり過ごすこともできたが、また今のような真似をされて騒がれてはこまる。姿を見せることにした。
「とりあえずお礼を言うわ。あなただれ?」
「通りすがりの冒険者です。そう言うあなたは?」
「美少女仮面ペルルノワール!」
女は目元を隠す仮面をつけていた。
翼を思わせる流麗な意匠は精悍かつ優美だったが、露出している細いおとがいや桜色をした硬質の唇の美しさから、仮面に劣らぬ美貌の持ち主だと想像できた。
たしかに美少女仮面の名は伊達ではなさそうだ。
「ずいぶんとアクロバットな方法で侵入しましたね」
「ええ、ここはただの冒険者が通りすぎるような場所じゃないわ。ああでもしなくちゃ侵入は無理だったの。……あなた、泥棒さん?」
秋芳は盗み目的でクェイド侯爵の庭園に忍びこんだのだ。たしかに泥棒である。
「泥棒とは人聞きが悪い。より格調高く義賊とでも言ってもらおうか」
「あら、ご同業かしら」
「ほほう、ご同業ね」
「あなた、本物の義賊なら、その心得は暗誦できる?」
「……弱い者から奪ってはいけない。貧しい者から盗んではいけない。富める者から盗み、貧しき者にあたえる――」
「正解!」
即興で出た言葉だったが、美少女仮面ペルルノワールの満足のいく答えだったようだ。古今東西、義賊の心得といえば、そのようなものだろう。
「ここの主はたいそう羽振りが良さそうなんでな、少しは恵まれない人々に余ったお金を分け与えてもらおうかと考え、忍び入ったという次第さ」
「ふ〜ん、でもあなた、東方人よね。捕まった同胞を助けに来たとかじゃないの?」
「捕まった同胞、とはどういうことだ?」
「クェイド侯爵の人狩りの噂を知らないとは言わせないわよ。職にあぶれた外国人労働者や貧しい人々を言葉巧みに誘惑して領内に招いて狩りの標的にする邪悪な遊戯の噂を。そしてその噂はおそらく真実。そのことを確かめ、告発するためにわたしは来たの」
「告発ねぇ。しかし貴族の所有する土地は一種の治外法権。被害者の身を確保して、その口から凶行を証言できたとしても、罪を問うことができるだろうか」
「法で裁けぬ悪ならば、この手で断罪するのみ!」
「ほう、天誅というやつか」
「民を虐げる暴虐な貴族は口からピラニア流し込みの刑にて処します」
「……まぁ、処断の仕方はともかく悪辣な権力者をころがして
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