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ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人
人狩りの夜 1
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 森のなかを影が疾駆する。軽功を駆使して枝から枝へと跳び渡る。
 この暗闇だ。人が見ても猿かなにかの獣が木々を飛び回っているとしか見えないだろう。
 壁虎功と同様に、この軽功の要諦は足腰の強さではなく眼力だ。
 跳び移る先の枝が自分の重みを支えられるか、瞬時に見極め、跳躍を繰り返す。
 肉眼だけではなく見鬼心眼によって細部を見取り、間合いを読む能力は山岳修業で培った。

「……!」

 秋芳の動きが止まる。
 いた。
 ウイングスーツをはずした黒装束の女を発見した。
 華奢で小柄な身体をつつむのは黒い革製の軽装服。袖も裾も短くワンピースのようなデザインで、そこから伸びるしなやかな手足は濃紺のタイツのような素材に覆われ、手袋やブーツも黒い。
 長い黒髪を後頭部でたばねて腰まで垂らしたポニーテールとあいまって、時代劇に出てくる、くノ一のようだ。
 その女性が、巡回中の衛兵の背後にピタリと張りついていた。
 後ろから奇襲でもするつもりかと思ったが、ちがった。なんとそのまま影のように寄り添い、衛兵の動きに合わせて歩を進める。
 完全に呼吸を合わせている限りは、この衛兵が背後の存在に気づくことはない。

「す、すごい!」

 巡回中の衛兵同士が出会い、挨拶をするときも寸分たがわず手を挙げ、完璧に相手の死角に入っていた。

「す、すごい!」

 中国武術には聴勁という技術がある。
 相手に手など体の一部を触れた状態で筋肉の微細な動きを先読みし、攻撃を瞬時に読み取る技術だ。
 それの応用であろう、この黒装束の女性は接触することなく、超至近距離で相手の微妙な筋肉の動きを見て動作を見切っていたのだ。

「す、すごい! でもアホだ。あのキャッツアイ女、どこに行くつもりか知らないがそれだと巡回する衛兵まかせじゃないか」

「お疲れさま」「お疲れさま」

 黒装束の女の動きに微塵の無駄もない。完璧だ。衛兵が手を挙げたらそれに合わせて手を挙げる。

「す、すごい! でもやっぱりアホだ。たしかに正面からはさとられないが、側面や後ろから見られたらもろばれじゃないか。もしすれちがった相手が振り向いて後ろを見たら……。あ、影だ。影だ影! 外灯に照らされてポニーテールの影がめっちゃ地面に映ってるよ! 下を見られたらばれちゃうよ!」

 秋芳の予想していたことが起きた。

「そういえば聞いたか、今夜は人狼の森でも狩りがあるから夜明けまでは近づかないよう――って、うわぁッ! シムラ(仮)〜、後ろ、後ろ! なんだそいつは!?」

まさにすれちがった同僚が後ろを振り向いて女の存在が発覚してしまったのだ。

「……っ!」

 騒ぎを起こされてはたまらない。いつも懐に入れているセルト銅貨を衛兵めがけて印字打ちする。

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