第三章
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「この幸せが続けばね」
「もう何も言うことはないのね」
「そうだよ。君もどうかな」
「ええ、私もよ」
妻もまた、だ。そうした慎ましやかな幸せを最高のものだと言う夫に対してこう言うのだった。
「この幸せが続けばね」
「もう何も言うことはないね」
「ええ、それ以上のことは望まないわ」
偽りのない言葉だった。そこにはそうしたものは何もなかった。
「それだけでね」
「そうだね。じゃあこれからもね」
「ええ、このままね」
家族で幸せに過ごせることを彼等の神に願った。そうして二人で日々を過ごす。
彼等のところには知識人や財産家として成功した者達がよく来て。ユダヤ系は欧州でもそうだがユダヤ系ではそうした立場に就く者が多い。ハリウッドやブロードウェイにも多い。クラシックの世界にも彼等は多い。
その彼等はヨセフによく多くの寄付を出した。しかしそれでも慎ましやかな生活を続ける彼にこう言うのだった。
「もう少しそちらの家族に入れられてはどうでしょうか」
「寄付のお金をですか」
「はい、そうされてはどうでしょうか」
こう彼に勧めるのだった。
「寺院は立派に普請をされていますが」
「はい、神の場所ですから」
そこにはお金を使う、しかしそれでも彼等の住む場所は質素なままだ。寄付をする彼等はそのことについて言うのだ。
「ですがラビとご家族については」
「いえ、私達はあれで充分です」
「あれで、ですか?」
築何十年、いや百年かも知れない。そうした古い家でもいいかというのだ。
「本当にですか?」
「お風呂場もありますし冷暖房もあります」
「だからですか」
「それに車もあります」
アメリカで生きていくに必要なものは揃っていた。それでだというのだ。
「何の不足もありません」
「あの古さでもですか」
「そうです。全くです」
本当に何も不自由していないというのだ。
「何の問題もなく過ごしていますので」
「そして食べるものも着るものもですね」
「充分です」
それもまただというのだ。
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