第五章
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「それがまたいいのです」
「だからですか」
「はい、スコールの後も最高なのですよ」
「じゃあこのまま」
「それに私がいないと谷崎さんはどうして絵を描かれるのですか?」
「絵を?」
「はい、今は立って絵を描かれてますけれど」
雨を避けてだ。傘の中に入る為にキャンバスを手許に寄せてラフ画を描いているのだ。その中での言葉だった。
「ですがここで傘がないと」
「だからですか」
「はい、傘をささせてもらいます」
「すいません。世話になります」
「御礼はいいですよ。御礼は夜に一杯ということで」
「わかりました。では」
こうしたやり取りをしながらだ。谷崎は傘をさしてもらいながら絵を描き続けた。スコールはかなり強かったがすぐに終わった。それからだ。
雨が止むと丁度だ。その時にだ。
学園の下校時間になった。女子学生達が一斉に校門を出る。そこにだ。
夕陽が差し込む。雨に濡れた道の上にだ。
アオザイの少女達が笑顔で歩いている。それを見てだ。
谷崎はふとだ。こうガイドに言った。
「これは」
「何か感じましたか?」
「はい、感じました」
まさにそうだとだ。彼はガイドに答えた。
「いい絵ですね」
「アオザイの女の子達にですね」
「それに雨あがりのこの時間」
時間のこともあるというのだ。
「風景も」
「ああ、今のこの風景ですね」
「いいですね」
こう言うのだった。雨上がりの夕方のホーチミンの街を見ながら。
濡れたアスファルトの青い道に紅の日差しが差している。そしてだった。
その中を白いアオザイを着た黒髪の少女達が笑顔でいる。青と赤の中に。
少女達の白い晴れやかな顔も見てだ。彼は言ったのだ。
「これです。この時です」
「絵のヒントがありましたか」
「ただ、女の子が奇麗なだけじゃなかったんです」
それだけでは絵に、芸術にならないというのだ。
「街に時間、それに光」
「あと天候ですか」
「そうしたものが全て合わさってだったんです。少女は少女だけで少女になるのではなく」
「全てのものが合わさってそのうえで」
「少女になるものだったんです」
即ちだ。芸術になるというのだ。
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