2. あなたとご飯が食べたくて
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だけで、別段強いというわけではない。そんな僕だから、きっと大会に出ても、一回戦を突破することすら出来ないだろう。鳳翔さんの前で無様な姿を見せるのは、どうなんだ……
それに、もし僕が出場して一回戦で負けたら……鳳翔さんに迷惑がかかるんじゃないだろうか……そんな心配事が頭を駆け巡る。『僕、剣道出来ますよ』と言いたくなっていた気持ちは、急激に小さくなり、胸の奥底に引っ込んでいった。
「ああそういえば!」
三つ目のお櫃を空にし、今は美味しそうにお茶をすすってる赤城さんが、手をポンと鳴らした。その輝く瞳は、まっすぐに僕を見ている。そういえばこの人は、ロドニーさんと仕事仲間だ。ひょっとして、僕が剣道をしていたのを知っているのだろうか。
「普賢院さんは剣道の心得があるらしいじゃないですか!」
「はい……ありますが……」
心持ち、鳳翔さんの顔がパアッと明るくなったような……次の瞬間、鳳翔さんは持っていたお箸とお椀をテーブルに置いて、手を膝に置き、真剣な眼差しで、まっすぐに僕を見た。
「もしよかったら、食堂代表として出場していただけませんか?」
「ぼ、僕がですか……? でも僕、弱い……ですよ?」
「真剣勝負じゃないですから。ホントに、ただのお遊びみたいなものですから」
んー……ほんとはここで『はい出ます』って言いたいんだけど……でも鳳翔さんの前で、みっともない姿を晒すわけには……そして鳳翔さんに、ご迷惑をおかけするわけには……!!
「……すみません。自信、ないです……」
「そうですか……まぁ、無理強いは出来ませんし……」
あれだけパアッと輝いていた、鳳翔さんの笑顔がくすむ。輝きを失った鳳翔さんの眼差しが、僕の胸にぐさりと刺さった。うう……こんなことなら、もっとちゃんと剣道に打ち込んでおけばよかった……ずっと続けておけばよかった……そうしておけば、今、自信を持って『やりますっ』て言えるのに……。
「……ごめんなさい」
「いや、こちらこそすみません。無理なお願いをしてしまって」
頭を下げる僕に対し、ちょっと困ったような苦笑いを浮かべる鳳翔さん。彼女の悩みの種は未だ消えず……僕の胸に、罪悪感が広がっていく。
「ぁあ赤城。当日ですけど、なにかリクエストはあります?」
「リクエストですか?」
ここで僕は、自分自身が、実は思った以上にゲンキンな性格であるということを、生まれて初めて自覚した。たとえ気が乗らない頼まれごとであっても、対価があれば、意外とすんなりと受け入れる……まさかそんな、俗物的な性格をしているとは、思ってもみなかった。
「お弁当です。みなさんの分の昼食を準備しようかなと」
「お弁当!? 運動会の時のですか!?」
「はい。そのためにお重も準備してありますし」
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