暁 〜小説投稿サイト〜
チェロとお味噌汁と剣のための三重奏曲
2. あなたとご飯が食べたくて
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…おいしいけれど……うーん……」

 ……だけど、やっぱりちょっと物足りない。美味しいことは美味しいのだが、心の底から『うん! 美味しい!!』と思えない。我ながら子供みたいだけど、鳳翔さんに会えなかったことがそんなに残念だったのか……少々うつむきがちに食事を続けることにする。

「相席してもよろしいですか?」

 女性が僕に話しかけたようだ。僕は今、テーブルの上の煮付けに視線を向けているから、僕に相席をお願いしているその人が誰なのか分からない。だけど、ここで断るのもなんだか申し訳ない。

「いいですよ。よかったらどうぞ」
「ありがとうございます。では……」

 椅子の音が鳴り、その女性が僕の向かいの席に座ったのが分かった。この人が座る前に、ちゃんと顔を上げて返事すればよかった……と気にしながら、僕はご飯を一口頬張って飲み込んだ後、お味噌汁を静かにすする。クセってわけじゃないんだけど、お味噌汁をすする時、自然と目を閉じちゃうんだよねぇ。

「……ほっ」
「お味噌汁はどうですか?」
「とても美味しいです」
「その割にはいつもに比べて表情が優れませんが……」

 ……ん? いつも僕がここで食べてることを知っている?

「ええ。美味しいんですけど、多分、作ってる人が違うからだと……」
「わかるんですか?」
「ええ。いつも作ってる方のお味噌汁は、本当に絶品ですから」
「そんな……うれしいです」

 ……んん!? ハッとして目を開く。僕の向かいの席に座った女性とは……!?

「いつもありがとうございます」
「鳳翔……さん……ッ」
「はいっ。私の名前をご存知だなんて、光栄です」

 なんという僥倖……僕との相席をご所望のご婦人は、鳳翔さんだったのか……ッ!? 少々ほっぺたを赤くした鳳翔さんは、嬉しそうにはにかんでいる。その笑顔は、僕から平常心を失わせるには充分すぎるほどの破壊力を秘めていて、とたんに胸がバクバクと音を立て、額から冷や汗が吹き出し、箸を持つ手が震えだした。

「? どうしました?」
「あ、いやあの……ッな、なんでもないでしゅっ!!」
「?」

 緊張で舌噛んだ……不思議そうに首を傾げた鳳翔さんは、不思議そうな顔のままお味噌汁をすすったあと、静かにカレイの煮付けを口に運んだ。

 僕もご飯を口に運ぶけど……緊張のせいか、さっきまでの美味しさをまったく感じない。舌がパニックを起こしてるようだ。

「……ん。美味しい」
「は、はいッ! この煮付け、とてもおいしいでしっ!!」

 鳳翔さんの言葉に、つい過剰な相槌を打ってしまう。その様子は鳳翔さんにとっても少々おかしかったらしく、くすくすと笑いながら、付け合せのたくわんに箸を伸ばしていた。

「ふげんいんともひささん……ですよ
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