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チェロとお味噌汁と剣のための三重奏曲
2. あなたとご飯が食べたくて
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?」
「すでに全員打ち負かした。あとは貴公だけだ……普賢院智久ッ!!!」
「……だからなんでフルネームで僕を呼ぶんですか……」

 モップの柄を僕に向け、腹から声を出すロドニーさん。完璧な腹式呼吸でものすごく大きな声が出るんだから、歌を歌うとか管楽器をやってみるとかすればいいのになぁ……キレイな声だし、トロンボーンとかすごく似合うと思うんだけど。背、ちっちゃいけど。

「さあ貴公! このロドニーの挑戦を受けるがいいッ!!」
「遠慮します」
「んがッ!?」
「何度も言ってますけど、僕は弱いです。それに、僕はこれからチェロの練習をしたいんです」

 そういい、モップをギリギリと握る彼女の隣をすり抜けて、僕は練習室に入って扉を閉めた。ドアの向こう側からは、『私では貴公の良き敵にはなれんというのかッ!?』てロドニーさんの叫びが聞こえてるけど、まぁ気にしない。ケースからチェロを出し、チューニングをじっくりと済ませ、現在練習中の『白鳥』の譜面を出す。

「……」

 何度か繰り返しうまくいかないところを振り返り、時計を見た。 午後五時半。やはり集中しだすと時間が早く感じる……

「……そろそろご飯食べに行こう」

 チェロを片付け、譜面台と譜面をたたみ、僕は練習室を出た。ロドニーさんの姿はない。そら練習始めてから2時間ほど経ってるし、まさか二時間もここで棒立ちになってるはずがないか。

 そのまま足早に鎮守府に向かい、食堂に入る。食堂に立ち込めるお味噌汁の香り……

「……あれ」

 ちょっとした違和感を覚え、厨房の中を覗くように首を伸ばした。鳳翔さんの姿はない。

「そっか。鳳翔さんは休みか」

 鳳翔さんはこの厨房の責任者だとどこかで小耳に挟んだことがあるけれど、いくら責任者といえど、休みの日はある。今日は鳳翔さんは休みらしく、僕にとっては運の悪い日といえた。

 ちょっと意気消沈した気持ちを抱え、僕はいつもと違う人から今日の献立が乗ったお盆を受け取った。お味噌汁もとてもよい香りがするし、今日のメニューのカレイの煮付けも、甘辛い香りが食欲をそそる。だけど……

「んー……」

 今日は鳳翔さんと会えなかった……毎回ほんの数分だけの会話なのだが、僕にとって、その数分がどれだけ大切な時間か……沈み込んだ気持ちを抱え、僕は空いてる4人掛けのテーブルに座った。

「いただきます……」

 両手を合わせていただきますをした後、お味噌汁を静かにすする。んー……大好きな大根のお味噌汁だけど、やはり、なんだかちょっと物足りない。

 続いて、カレイの煮付けの身をほぐし、煮汁にひたしてご飯の上で一度受け、口に運んだ。甘辛い煮汁の味が口いっぱいに広がり、それがカレイの美味しさを引き立てる。

「んー…
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