第一章
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夕刻の横顔
谷崎修太郎は画家である。そしてそれと共に同性愛者でもある。
大柄で熊の様な身体をしていてしかも顔は髭だらけである。髪は黒い剛毛で角刈りにしている。
そのうえでそうした嗜好だからだ。周りはこう言うのだった。
「怖いよなあ、やっぱり」
「俺襲われたらどうしよう」
「後ろから襲い掛かられてぶっすりとかな」
「そういう危険あるよな」
誰もがだ。彼の同性愛を恐れていた。男達は彼に襲われることを心の底から懸念していた。
だが彼は紳士だった。絵を描くことに専念するタイプだった。そして彼の恋愛に関してもだ。至って紳士的で落ち着いたものであった。
描くものも風景画や美人画だ。ヌードは描かない。その彼に対してだ。
画廊を経営している浜崎玲、すらりとした黒のロングヘアに大きな目を持つ整った顔立ちの彼女がだ。こんなことを言ってきたのだ。
「あの、先生に提案ですが」
「何でしょうか」
外の薔薇の園で薔薇を描きながらだ。彼は浜崎に応えた。
「絵の依頼でしょうか」
「はい。今度は少女の絵をお願いしたいのですが」
「少女絵ですか」
「どうでしょうか」
浜崎は微笑んで谷崎に言う。
「それを描いて頂けるでしょうか」
「そうですね」
薔薇、紅のそれを描きながらだ。谷崎も答える。
「実はこれまで少女を描いたことはなかったです」
「そうでしたね」
「新しいことにチャレンジする」
これまでしなかったことにだ。あえて挑戦するというのもだというのだ。
「それもまた芸術にとっては必要です」
「そう思いまして」
「提案して下さったのですね」
「はい。先生は芸術は常に前を進むものだと仰っていますね」
「その通りです」
描きながらだ。彼は浜崎に自分の言葉を肯定する返事で返した。
「私は常にそう考えています」
「では。どうでしょうか」
「受けます。ただ」
「ただ?」
「それがどういった少女なのか」
その題材となる少女についてだ。谷崎は言うのだった。
「それについてですが」
「はい。どういった少女を描かれますか?」
「今すぐに考えはまとまりません」
それは無理だというのだ。
「ですから。少し待って頂けますか」
「はい。待たせてもらいます」
浜崎もだ。微笑んで谷崎の言葉に答えた。
「先生の芸術の完成を見させてもらいます」
「有り難うございます。では」
こうしてだ。話は決まった。そうしてだ。
彼は今の薔薇の絵を完成させ浜崎に預けてからだ。その少女の絵に取り掛かった。だが。
その題材になる少女がだ。これがだった。
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