第五章
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「父親は学者だったそうで」
「学者。儒学か」
「いえ、そっちじゃなくてやんすね」
ではどの学問かというと。
「あれでやんす。外からので」
「蘭学か」
「蘭学者で医者だったそうで」
「そうか。ではどういった学者だったのか」
「あっしもそこまではわかりやせんがね。ほら、花魁の生い立ちなんて誰も言いやしやせんから」
それがある程度の決まりになっていた。吉原では。
「そうでやんすから」
「それでか」
「ええ。まあ生まれもよくわからなくて子供の頃に売られてきて」
太鼓持ちはこう話していく。
「うちの店にいやして」
「わかるのはそれだけか」
「ええ、それだけです」
そうだったというのだ。
「他は何もです」
「わかった。ではこの女は」
「可哀想ですけれど助かりやせんね」
医師は太鼓持ちの残念そうな顔と言葉にここでも首を横に振ってそのうえで答えた。太鼓持ちもそれを見て言う。
「そうでやんすか」
「せめて楽に旅立たせる」
これが医師ができることだった。
「そうする」
「そうして下さい。花魁ってのは悲しいものですからね」
春を売り様々な病で早いうちに死ぬ。そして死ねば無縁仏となる、それが花魁の宿命だ。だからだというのだ。
「せめて最期は」
「わかっている」
彼が答えた。
「そうさせてもらう」
「ええ、頼みますよ」
三人で女を引き取った。だがその引き取った日にだ。
女は死んだ。その最後の言葉もだった。
「ちゃん、か」
「ずっと親御さんのことを思っていたな」
「そうだったな」
三人は医師の家にいた。その一室に女を布団の中に寝かせていた。その枕元での話だった。
「やはりこの女だったのだろうか」
「そうではないか」
「おそらくじゃがな」
三人でこう話していく。
「はっきりとはわからんがな」
「そうではないか」
「わしもそう思うわ」
「ならば。太鼓持ちとの約束もある」
彼が医師と岡っ引きに言った。
「ちゃんとな。この女はな」
「うむ、葬ってやろう」
「しかとな」
三人で話してだ。そうしてだった。
彼等はその女を葬った。無縁仏ではなく彼の縁者ということにしてしっかりと葬ったのである。それから暫く経ってだ。
三人で吉原に赴いた。吉原は火事の前の様になろうと店がまた建てられていき花魁達も来ていた。そして客達も集まってきていた。
その次第にあの時に戻っていく夜の街を見ながらだ。彼は医師と岡っ引きにこんなことを言った。
「今もいるか」
「いや、いないだろうな」
「そうだろうな」
二人はこう彼に返した。
「あの火事でおそらく
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