第一章
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難破船
船が出て行く。冬の港でその船を見送る私に。
女友達がこうだ。私に気遣う顔で言ってきた。
「いいのね」
「あの船に乗らなかったこと?」
「ええ。それはいいの?」
「いいわ」
私はその顔を俯けさせて。彼女に答えた。
「もうね。いいの」
「けれど。あんたあの人のことが」
「好きよ」
言葉は現在形だった。過去形じゃなかった。
今のあの人が好きだ。このことについて嘘を言えない。けれどだからこそだった。
私はあの人を追えなかった。何故なら。
「あの人は夢を掴みに行くから」
「そうね。この島を出て」
「小さい島よ」
私達が住んでいる島は。本当に小さな島だ。
漁と。昔金山があったその観光だけの島。本当に小さな島。私はこの島に生まれてずっと暮らしている。それはあの人も同じだった。
けれどそれでもあの人は出て行く。それは何故かというと。
「東京で仕事をしてね」
「そこで成功してよね」
「大きくなりたいから」
だから。あの人はこの島を出て行くのだった。
「そう言って島を出るから」
「だから追わないのね」
「ええ」
友達の言葉に。私はこくりと頷いて答えた。
船は冬の鉛の様な海を進んでいく。空も暗くどんよりとしている。本当にこの島の冬の海だ。私は冬はいつもこの海を見て育ってきた。
それはあの人も同じだった。けれど。
あの人は今だった。この島を出て。
東京に向かう。私に別れを告げてから。
そのあの人にだ。どうしてもだった。そしてその理由は。
「この島から。私はね」
「離れられないからなのね」
「私はこの島が好きだから」
それは。あの人と同じだけだった。
「誘われたけれどね」
「それでもなのね」
「ここは私の故郷だから」
そしてだった。さらに。
「お父さんとお母さんも。皆もいて」
「私のことも?」
「ええ。寒くて。沈んだ場所だけれど」
今のその冬の海も見て。そのうえでの言葉だった。
「それでもね」
「故郷で。私達がいるから」
「だからね。悩んだわ」
このことも事実だった。あの人と一緒に東京に行くかそれとも。
この島に残るか。そして私が選んだことは。
この島に残ることだった。だから今ここであの人が乗っている船を見送っていた。船は今ははっきりと見える。けれどすぐに遠くに消えることはわかっていた。
その船を見つつ。私は友達、幼い頃から一緒にいるこの彼女に言った。
「どうするかってね。けれどね」
「それでもなの?」
「私はこの島から離れられないから」
遠くを見てだ。私は答え
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