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世界をめぐる、銀白の翼
第七章 C.D.の計略
うたわれるもの
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絶鬼
悪を絶つと、そう自らつけた名。

お前はその名の通りに、敵を、悪鬼どもを滅してきたな。

そして、最後に自らの身すらをも投じて。



イブキの言葉が、絶鬼の耳へと溶け込んでいく。
嗚呼、この上品で、厳かで。しかし嫌みのない言葉は間違いなくあの男のものだ。


だが、しかし。
だからこそ、この言葉には虫唾が走るのだ。


「黙れ・・・貴様は、某を裏切った者・・・悪を絶たんとする我らを追い立て、その後には某の事すら歴史の中から抹消したのだからな・・・!!!」

呟きとも、絶叫とも取れる言葉を漏らす絶鬼。
音撃棒を握る手に、力が籠められる。

だが、イブキはそれに一切臆すことはなかった。



私はな、ゼッキ。友であるお前に、何もしてやることができなかった。
私はな、ゼッキ。お前という友を失いたくなかったのだ。

お前の出した考えは、自らを死地へと向かわせる手段だということを、私は知っていた。
お前はそれでも、断行すべきだと叫んでいたが、私はそれよりも、お前という友を失うことが怖かったのだ。

だからあの夜、お前を見つけ、行かぬように命じた。
たとえお前にどれだけの罵詈雑言を浴びせられようとも、たとえお前が怨もうとも、私はお前を止めたかったのだ。



だが、私はあの夜。
追っ手を振り切ろうと走るお前を見つけ、戻るように踏み出した足は止まってしまった。


お前の顔を見て、私は止まってしまったのだ。
嗚呼、この男は自分を恨んでいると。


私は眺めることしかできなかった。
お前に近づき、お前から罵倒されるのを恐れたのだ。

笑える話であろう。
お前を失わずに済むのなら、どのような言葉でも受け止めようと覚悟したというのに、私はお前を前にしてそれを恐れたのだ。

お前の前に出て、それを言われたら、私の想像は現実になる。
それが何より怖かった。


考えうるお前の拒絶、恨み、罵倒、怒り。
それらを超えるだけの強さが、私になかったのだ。



そうだ。私は弱かった。



あの席で、宗家にあるまじき発言をして弾かれるのが怖かった。
だから、私は何も言えなかった。

あの場で、お前に怒りの感情と恨みの形相で睨まれるのが怖かった。
だから、あの場で見ているしかできなかった。

あの後で、総てを宗家の手柄にすることに、口を出すのが怖かった。
だから、お前の記録を消されてしまった。



全て、私が弱かったせいだ。
私は鬼になりながらも、身体をいくら鍛えたところで、弱いままだったのだ。



私は、あの時すべきだったのは、お前を信じてともに行くことだった。


お前と共にあの地に向かい
お前と共にあの地で戦
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