暁 〜小説投稿サイト〜
世界をめぐる、銀白の翼
第七章 C.D.の計略
うたわれるもの
[2/14]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

お前と共に、帰るべきだったのだ


今となってはすべてがもう遅い。
お前はすでに、土の下で眠りについてしまっていた。


嗚呼、ゼッキ。
私も数日のうちに、お前の元へと行くはずだ。

そうしたら、謝らせてくれ。
そして、今度こそ私と共にあの音を奏でてくれ。



「・・・・・・・」

一連のイブキの、文を読み上げる言葉を黙って聞く絶鬼。
だが、そこまで聞いて残念そうに笑った。

とてもとても悲しそうに。



「そうだな、イブキ。お主は鬼の宗家のくせに、戦うのを怖がっていたな。いつも、いつもだ。だがな。その文が真実という証拠が、どこにある」

叫ぶ。
お前たちは、多くのことを偽ってきた。

今更そのようなものを信じろと言うのか。
大方保管されていたものを引っ張り出したとか言うのだろうが、それがイブキのものだという証拠だってない。


絶鬼の叫び。
それは大気を叩き、まるで音撃のようにイブキを叩いた。

ビリビリとその振動に文が揺れ、ばさりとイブキの手から落ちる。



風に吹かれ、それが舞って絶鬼の足元へと舞い降りた。


フン、と鼻で笑う。何だこんなもの。
そう思い、踏みつけようと睨みつけた。


だが


少年だったのだ。
私は、昔からずっと。


その文字に、足が止まる。





お前は、私のことを少年のようだと言ったことがあったな。
すでに齢30に近い男に、何を言っているのかと思ったが。



そうだ。私は子供だった。

お前を失いたくないといい。
お前に嫌われたくないという。


そのどちらか片方しかとれぬというのに、私はどちらをも求めて、どちらをも失った莫迦な餓鬼だった。


お前がいなくなってから、総てが無為に感じた。


お前が里に来る前に戻った、などということではない。
それよりもなお、空虚に感じた。


まるで、何もかもが自分をすり抜け、全てが透明になってしまったかのようだった。




私は悩み――――そして、それを放棄した。
周囲の人間の通りに動いたのだ。

言われた通りにすればよい。


宗家として求められてきたことをこなし、そしてそれだけでいいと安堵していたのだ。
そう、まるで親に言われたことをしていればいい、子供のようにだ。




私は、あの時お前とともに旅立つべきだったのだ。

心の振るえる場所で
私しかできないことを求め

あの晴れた日に、お前と胸を張って戦いに向かえばよかったのだ。


宗家イブキではなく。
この私自身の、他の誰でもない自分の生き方で。



「イブキ・・・・なのか・・・・・?」
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ