第七章 C.D.の計略
うたわれるもの
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い
お前と共に、帰るべきだったのだ
今となってはすべてがもう遅い。
お前はすでに、土の下で眠りについてしまっていた。
嗚呼、ゼッキ。
私も数日のうちに、お前の元へと行くはずだ。
そうしたら、謝らせてくれ。
そして、今度こそ私と共にあの音を奏でてくれ。
「・・・・・・・」
一連のイブキの、文を読み上げる言葉を黙って聞く絶鬼。
だが、そこまで聞いて残念そうに笑った。
とてもとても悲しそうに。
「そうだな、イブキ。お主は鬼の宗家のくせに、戦うのを怖がっていたな。いつも、いつもだ。だがな。その文が真実という証拠が、どこにある」
叫ぶ。
お前たちは、多くのことを偽ってきた。
今更そのようなものを信じろと言うのか。
大方保管されていたものを引っ張り出したとか言うのだろうが、それがイブキのものだという証拠だってない。
絶鬼の叫び。
それは大気を叩き、まるで音撃のようにイブキを叩いた。
ビリビリとその振動に文が揺れ、ばさりとイブキの手から落ちる。
風に吹かれ、それが舞って絶鬼の足元へと舞い降りた。
フン、と鼻で笑う。何だこんなもの。
そう思い、踏みつけようと睨みつけた。
だが
少年だったのだ。
私は、昔からずっと。
その文字に、足が止まる。
お前は、私のことを少年のようだと言ったことがあったな。
すでに齢30に近い男に、何を言っているのかと思ったが。
そうだ。私は子供だった。
お前を失いたくないといい。
お前に嫌われたくないという。
そのどちらか片方しかとれぬというのに、私はどちらをも求めて、どちらをも失った莫迦な餓鬼だった。
お前がいなくなってから、総てが無為に感じた。
お前が里に来る前に戻った、などということではない。
それよりもなお、空虚に感じた。
まるで、何もかもが自分をすり抜け、全てが透明になってしまったかのようだった。
私は悩み――――そして、それを放棄した。
周囲の人間の通りに動いたのだ。
言われた通りにすればよい。
宗家として求められてきたことをこなし、そしてそれだけでいいと安堵していたのだ。
そう、まるで親に言われたことをしていればいい、子供のようにだ。
私は、あの時お前とともに旅立つべきだったのだ。
心の振るえる場所で
私しかできないことを求め
あの晴れた日に、お前と胸を張って戦いに向かえばよかったのだ。
宗家イブキではなく。
この私自身の、他の誰でもない自分の生き方で。
「イブキ・・・・なのか・・・・・?」
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