帝都にて
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も庭園も最高級のものがオルランドにはそろっている。たとえば――」
秋芳はしばらくのあいだ、ヴァドール伯爵をはじめ他の貴族達との世間話を楽しんだ。
夜陰にまぎれて影が走る。
黒に近い紺色の外套と頭巾を身につけた秋芳だ。
賀茂秋芳は短気で根に持つ性格である。
あの場ではつとめて冷静を装っていたが、クェイド侯爵から酷い暴言を浴びせられて腹が立たないわけがない。
賀茂秋芳は相互主義者である。
礼儀を知らない者に、礼儀を尽くす必要はない。礼には礼をもって返す、無礼には無礼をもってあたれ。これが秋芳の持論だ。
なので、留飲を下げるために郊外にあるクェイド侯爵の屋敷へとむかった。
高価な銀食器や宝石の類を少々頂戴するつもりだ。なんなら現金でもいい、それならば足がつかないので、盗った後に侯爵が毛嫌いする外国人や貧民相手に大盤振る舞いするつもりだ。
余人からは軽挙妄動だの匹夫の所業だのと言われるかも知らないが、そんな意見はクソ喰らえである。
「君子有三戒。少之時、血気未定。戒之在色。及其壮也、血気方剛。戒之在闘。及其老也、血気既衰。戒之在得――。君子に三戒あり。孔子様、俺はたった今闘争戒を破ります。しかし悪いのは君子たらんと努力する俺を怒らせたあいつです」
帝都オルランドの郊外にあるクェイド侯爵の邸宅は質素倹約を良しとして慎ましやかな生活を送るアリシア女王とその治世に逆らうかのように豪華なたたずまいをしていた。
大運河を望む邸宅は高い塀で囲われ、遠目からでもひときわ目立つ。
広大な敷地内には山林や草原を模した狩猟場が広がっており、邸宅内の天井や壁は金色で彫刻やシャンデリアなどの調度品がいたるところに飾られていた。
帝都の近くで本格的な狩猟ができる貴族限定の高級会員製クラブとして使われ、入会費はリル金貨二〇〇〇枚。
ちなみにリル金貨一〇〇枚で通常の魔術講師の約四ヶ月分の給料である。
クェイド侯爵と狩りを共に楽しみ、館で宿泊するという一連の流れが最高の接待コースになっていた。
「なんとまぁ大仰な。塀どころか、まるで城壁じゃないか」
クェイド侯爵の帝都内領土ともいえる土地の外周は焼いたレンガを幾枚にも積み重ねた一〇メトラ近い高さの壁を周囲にまとっている。
その上端はノコギリ状の凹凸を持つ胸壁となり、城門の両脇と城壁の四方、遠くに見える邸宅の背後には物見の塔がそびえていた。
組み上げられたレンガ壁の所々には狭い隙間が開いているが、それは矢や銃を放つための狭間といわれる小窓だ。
「ナーブレス邸といった他の貴族の館とはけた違いの堅固さだ。こりゃあ後ろめたいことがあるにちがいない。だいたい貴族の館ってのは存外守りが薄いものだぞ。鼠小僧の忍び込んだ江戸時代の大名屋敷
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