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ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人
帝都にて
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い。この手の噂は昔から横暴な貴族にはつきものなんだよ」
「では、その手の噂はあくまで噂。事実だった例はないのですね。東方人である私はクェイド侯爵にとっては狩りの標的になりますから、これは他人ごとではない」
「はっはっは。さぁて、どうだろう。事実は小説よりも奇なり。という言葉があるからね。もっとも騎士爵殿ほどの腕があれば狩人を狩る獣になれるだろう」
「狩るのも狩られるのもごめんですね。狩りってのはどうも好きになれない」
「狩猟は貴族のたしなみのひとつだよ。君も我々の仲間になるのなら好きになったほうがいい」
「まぁ、食べるための狩りなら納得できますが、ブラッド・スポーツやスポーツハンティングの類は苦手で」

 よほど敬虔な聖職者や極端な菜食主義者でもない限り、アルザーノ帝国の人達に狩猟が野蛮な行為だという認識はなかった。
 特に貴族や軍人の場合は馬に乗って弓や銃、時には魔術をもちいて動きまわる獲物の命を奪うことは軍事訓練にも繋がる。
 殺される動物がかわいそう。などという感傷的な気持ちは微塵もなく、貴婦人たちも狩猟場に足を運んで狩りを楽しんでいる。
 また罠などを仕掛けて獲物を取ることは軽蔑され、猟犬と共に獲物を追いこみ、銃などの武器や魔術を使って射止めないと意味がない。
 このように、狩猟はルールのあるスポーツのようなものだと考えられている。

「血肉を食らい、毛皮を獲る。命の一滴も残らず人の糧にする。そういう狩りならいいんだね」
「はい。ガチョウ引きや狐狩りのような虐待や無益な殺生が嫌なだけで、自分達が食べるぶんだけ殺すような狩りなら納得できます」
「まぁ、基本はそうだよ」

 射止めた獲物を持ち帰り、料理人に調理させて客に振る舞う。狩りの後の宴もまた王侯貴族たちの楽しみのひとつだった。狩猟は社交場でもあるのだ。
 また食用以外にも毛皮や骨で衣類や手袋、かばん等を作り、動物の命を無駄なくいただいている。

「しかしそういう考えなら魔戦武闘は楽しめないか」

 魔戦武闘。アルザーノ帝国内でもオルランドの闘技場でのみおこなわれる、魔獣対魔獣。あるいは人と魔獣の戦い。
 その性質上引き分けが存在しない、どちらかの命が尽きるまで戦う死闘。
 近年ではその残酷さから廃止を求める声もあるが、庶民から貴族にいたるまで熱狂的なファンも多く、歴史と伝統のある競技ゆえいまだに続いている、オルランド名物のひとつだ。

「真剣勝負は技量にかかわらずいいものだ。決する瞬間、互いの道程が火花のように咲いて散る……。ああ! あの興奮と熱狂はいちど味わうとくせになる」
「闘争に対する原始的な昂りを否定はしませんが、血生臭いのはどうも。それよりも観劇や庭園散策のほうが好きです」
「これはどうも、騎士爵殿はこの吟遊詩人よりも文化人だね。劇
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