帝都にて
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、その使いを稽留して、その事を聴くなかれ。亟かに代わりを置くことをなさしめ、遺るに誠事をもってし、親しみてこれを信ぜば、その君まさにまたこれに合わんとす。苟もよくこれを厳にせば、国すなわち謀るべし――」
「それはなにかの呪文かい?」
「交渉の為に隣国から使者が来て、その者が有能ならばなにひとつ与えずに返せ。その者が無能ならば大いに与えて歓待せよ。そうすれば隣国では無能な者が重用され、有能な者が失脚する。そしてやがては滅ぶ。という、東方に伝わる兵法書に書かれた言葉です」
「なかなかに達見した言葉だ。このヴァドール伯カブリュ感嘆の極み! ほかにもそのような含蓄のある名句はおありかな」
「国が亡びるのは敗北した時ではなくて、敗北を隠すようになった時だ」
「これまた名言だ。それもその兵法書に書いてある言葉なのかな」
「いいえ、私の言葉です」
「ハハハッ! その言葉いただきだ。ぜひこのヴァドール伯カブリュの作品で使わせてくれ」
しばらくしてクェイド侯爵が退席すると、彼に合わせて談笑していた貴族たちがあきれ顔で嘆息した。
「ふぅ、やれやれ。侯爵の外国人嫌いも筋金入りですな」
「まったく、あんな国際感覚でよく一国相手の交渉が務まるものだ」
「アルザーノよりもレザリア人気質なので気が合うのでは。異民族に対する弾圧好き同士で気が合うのでしょうよ」
どうやら考えていることはみなおなじらしい。
「レザリアから相当もらっているらしい。なかなか羽振りが良くてあちこちにばらまいているそうだ」
「今回の勲章も金で買ったようなものだろう」
「私は侯爵の外国人嫌いの噂を聞いていたましたが、あれほどとは。あれでは例の噂も真実味を帯びますな」
「ああ、あの……」
「その例のあれ。侯爵とおなじ反女王、下民嫌いのギルモア大公も参加しているとか、していないとか」
「しっ、声が大きい……」
上流階級のゴシップ好きはいつの時代のどこの国でも変わらないらしい。こそこそとなにやら良からぬ噂についての話題におよんでいる。
いやでも内容が耳に入ってきた。
いわく、不法移民や非市民、貧民街の人々を標的としたハンティングを楽しんでいる。
さらに上流階級のセレブたちから高額な手数料を取ってゲームに参加させているという。
「彼は郊外に広い土地を持っているからね、そこを自分の狩猟場にしているわけさ」
「そういえばクェイド侯爵はナーブレス公爵のような地方領主ではなく宮廷貴族でしたね。はて、オルランドに自分の家があるのに、なんでここに顔を出したんでしょう」
「そりゃあ外国人に対する悪口をまき散らしに来たんだろ」
「石拳のロルフみたいなやつだなぁ。しかし人狩りとは、物騒な噂もあるものですね」
「たしかに物騒な話だが、そう珍しい類のものじゃな
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