帝都にて
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です。そして今あなたはお茶でも酒でもない生姜水を飲んでいる。肝臓を痛めているという自覚があるのでアルコールやカフェインの摂取を控えている」
「医者から言われた内容そのものだ。一目で症状を言い当てるとはこのヴァドール伯カブリュ感嘆の極み! 騎士爵殿は医学にも明るいのか」
「さて、そこです。私の生まれた国には鍼灸という独特の医療法がありまして――」
手のひらにある老宮、手の甲にある陽池、足の甲にある太衝、足の親指と人指し指のつけ根にある行間、膝の内側にある曲泉、背中にある肝兪。
これらはすべて肝臓の働きを良くする経穴だ。
好奇心旺盛なヴァドール伯爵はそれらを点穴してもらった。
「あいたたた!? ……しかし、この痛みが妙に心地好い。身体が温まってくるようだ」
「執筆で目も酷使していることでしょう。この太陽穴は眼精疲労に効果があります」
「おお、目のかすみが消えて鮮明に」
「腰痛には帯脈と命門を……」
「重りが取れたように身体が軽くなった!」
変わり者で有名な放浪伯が見なれぬ東方人に妙なマッサージをされている。珍妙な光景に惹かれて、いつの間にか人だかりができていた。
そのうち好奇心旺盛な若い貴族たちも東方渡来の鍼灸を受けてみようと挙手しだす。
「痛風にはまず足の照海と京骨を――」
「おお、心なしか痛みがやわらぐような……」
「最近どうも怒りっぽくて」
「では耳の神門を――」
「この鍼灸という技は素晴らしい。我が国の法医呪文にも取り入れてはどうか」
盛り上がりを見せていた場の空気を冷やすひとことが放たれた。
「……騒がしいぞ。ここはいつから未開のまじない師の祈祷場になったのかね」
「クェイド侯爵!?」
口髭を生やした痩身の老紳士が不機嫌さを隠さず若い貴族たちを一瞥した。
「由緒あるゴールデンシープ内で蛮族の下品なまじないに興じるとは、貴公らには分別というものがないのか。みっともない、すぐに服を正せ!」
「これは、お見苦しいところを」
「帝国貴族たる者がいかがわしい真似を、そのうちそこの蛮族から蝋を塗った鍋≠ナも買わされるぞ」
蝋を塗った鍋。これは魔術師たちの間でよく使われる、魔術を装った詐欺を指す俗語だ。
錬金術を謳った詐欺のなかでもっとも有名な手口がもとになっている。
その手口とは、まず少量の金を鍋の底に入れておき、上から蝋を垂らす。そのままではばれるので鍋とおなじ色を塗り、鉄や鉛といった材料を入れて熱すれば蝋は溶けて蒸発し、鉄や鉛に交ざって金が出てくる。いかにも金を生み出したかのように見せる。錬金術詐欺の常套手段で、いまだに類似の詐欺に騙される者がいるくらいだ。
つまりクェイド侯爵は秋芳を、初対面の人間を詐欺師呼ばわりしている
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