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ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人
帝都にて
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の理由くらい教えて欲しいものだ」
「まったくです。宮廷貴族とは異なり我々のような領地貴族は国許にたくさんの業務をかかえているというのに」
「おや、聞き捨てなりませんな。官僚仕事も楽ではありませんぞ」
「やはり女王陛下の代わりはレニリア姫にはまだ早すぎなのでは」
「……そのレニリア姫ですが、御悩になられたという話も――」

 そのような話が交わされていると、ひとりの紳士が末席にいる秋芳に気さくに語りかけてきた。

「やぁ、シーホークの英雄くん。ここのホテルの料理はどうにも薄味だね。つい最近シルヴァース地方で食べた羊鍋が濃い味つけだったから、よけいに薄く感じるよ」
「これはヴァドール伯爵。このたびは栄えある文化勲章受章おめでとうございます」
「栄誉など蛍の光のごときもの。遠くから見れば輝いているが、近くに寄れば熱も明るさもありはせぬ――。そもそもまだもらっていないしね。受勲式はいつになることやら」

 カブリュ・ヴァドール伯爵。放浪伯や詩人伯爵の異名を持ち、吟遊詩人として各地をさすらう異色の貴族だ。
 吟遊詩人とは楽曲を奏でる歌い手であると同時に歴史的な事実や物語の語り部でもある。
 歴史や物語についての研究が評価され、このたび文化勲章を賜ることになった。

「シルヴァース地方に行かれていたのですか」

 レザリア王国の宗教浄化政策で故郷を追われた遊牧民族シルヴァース一族。その民族名がそのまま彼らの故郷である大草原の通称になっていた。

「あちこち旅したけど東方にはまだ行ってない。ぜひ君の故郷のことについて聞かせてくれないか」
「私の生まれた国は東の果ての果て。極東の海に浮かぶ小さな島国です。とても田舎で、取り立ててお話しするようなことはありませんよ」

 ここルヴァフォース世界の東方にも秋芳の住むアジアに似た国々が存在する。初対面の人にいきなり異世界云々と説明するのは話がややこしくなるため、東方の小さな島国出身ということになっていた。

「そう言わずに、なにかあるだろう」
「そうですねぇ……。失礼ですがヴァドール伯爵は最近医者から肝臓が悪いと言われていませんか」
「ほぅ、なぜそう思うんだい?」
「吟遊詩人として各地を巡り歩く。長旅が続くとどうしても干し肉などの乾燥食品が多くなるでしょう。ビタミンやミネラルが不足して肝臓に負担がかかる」
「ふむ」
「シルヴァース地方は羊肉とチーズが名産ですが、これはどちらもコレステロールが高い。そして内陸部にあるシルヴァースを旅するアルザーノ人は海の味を懐かしみ、携帯食に干した魚や貝を用意しますが、これらはプリン体を多くふくみ、やはり肝臓に悪い」
「ふむふむ」
「肌に日焼けとは異なる黒ずみが見えます。白目の部分と爪が黄色がかっていて、これは肝臓に異常がある人の症状
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