第十一話 決勝戦、見ます その1
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右目に眼帯をしているため左目だけでカチューシャを見ることになっていたがそれで十分だった。
千冬の瞳を見たカチューシャは肩をビクリッとさせ、顔を横に向けた。
「じゃあ、行こうか」
そう言うと千冬は席を離れて一人、歩き出した。それに付いていくようにカチューシャとノンナが歩いて行った。
「お、おい!栗林!どこへ行く気だ?」
莞奈が声を上げて聞くが千冬は答えなかったが、代わりに小百合が答えた。
「ちょっと大事な話があるんだよ」
「大事な話?ここで話せない内容なのか?」
「そうだね……人が多い所では話したくないんだよ。カチューシャたちが」
「……そうか」
そう呟くように言うと莞奈は千冬の背中を見えなくなるまで見つめた。
千冬、カチューシャ、ノンナの三人は試合会場がよく見える丘の上にいた。
「……で、アンナもとい千雪の様子は?」
「………あまりよくない」
千冬が質問すると、うつ向きながらカチューシャは言った。
「そう……で、まだ続けてるんでしょ?戦車道」
「続けてるけど……」
「ならそれで良い」
千冬はそう言うと紙袋からおやきを一つ取りだし食べ始めた。
それを見ながらノンナが言った。
「心配ではないのですか?」
千冬はすぐには答えず、おやきを食べ終わると口を開いた。
「心配じゃないし、心配する必要はない。だってそうでしょ?理由はどうあれ自分自身の意志で戦車に乗っている。よくないと言っても昔の『私』ほど酷くない……そうでしょ?」
「しかし……これ以上彼女を……千雪を戦車に乗せていては危険です」
千冬は淡々とした口調で言ったが、ノンナは不安だった。ノンナだけではない。カチューシャもこの場には居ないニーナもアリーナも、千雪の車輌の乗員であるリリア、ミーシャ、ターニャも、その他多くの人が千雪の事を心配していた。
千雪は文字通り豹変していた。
大洗戦の後の授業にも出ず、朝から晩までひたすら戦車を動かし、何かに憑りつかれた様に虚ろな目で訓練をし続けている。同じ部屋に住んでいるレーナによれば食事もまともに取っていないという。
それほどまでに今の千雪は心身共にボロボロになっていた。
それを知っているはずなのに千冬は心配した様子を見せず、言い放った。
「理由はどうあれ自分自身の意志で戦車に乗っている。よくないと言っても昔の『私』ほど酷くない……そうでしょ?」
そう言うとノンナは黙ってしまった。黙らざるを得なかった。
昔の千冬を知っているため何も言えなくなったのだ。勿論カチューシャも昔の千冬を知っている。先ほどからずっと下を向いたままで何も言わない、言えない。
その二
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