巻ノ百十四 島津忠恒その十
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「それでもじゃ」
「盛り立てることですか」
「それを第一にするのじゃ」
「将軍家自体を」
「徳川家も松平家もな」
「その両方を」
「そう頼むぞ」
家康の声は穏やかだった、そして。
その声でだ、彼はまた春日局に言った。
「竹千代はお主に任せるが」
「幕府も」
「そちらを担う者の一人になってもらいたい」
「おなごでもですか」
「ははは、そこは人による」
家康は笑って春日局に返した。
「優れた者ならじゃ」
「おなごでもですか」
「任せられるものは任せる」
そうするというのだ。
「そして仕事をしてもらう」
「だからですか」
「お主には幕府も頼む」
そちらもというのだ。
「よいな」
「そこまで言われるとは」
「嘘は言わぬ」
笑みを浮かべたままでの返事だった。
「決してな」
「では命にかえて」
「頼むぞ、これが茶々殿ならな」
彼女ではというと。
「とてもじゃ」
「任せられませぬか」
「あれこれ話を言うが」
「あの有様では」
「どうしようもない」
絶対にというのだ。
「だからじゃ」
「幕府におられても」
「そこはお主とは違う」
どうしてもというのだ。
「わしにしてもな」
「そういえば切支丹のことですが」
春日局もこで言った。
「どうも大坂では」
「認めるか」
「そうした噂を聞いておりますが」
「わしもじゃ」
駿府の家康もとだ、春日局に答えた。
「その話は聞いておる」
「そうでしたか」
「多少のことは大目に見られてもな」
「切支丹のことは」
「あれだけはな」
「わしも看過出来ん」
「若し大坂がそれを認めれば」
「その大坂からじゃ」
「切支丹が天下に流れ込む」
「それでは他の藩が禁じてもな」
言うまでもなく幕府の命でだ。
「大坂から天下にそうなる」
「大坂は天下の要地ですし」
「あそこから東西に行ける」
「切支丹達も」
「そうなっては恐ろしいことになる」
「だからこそ」
「切支丹だけは認められぬ」
例えそれが大坂であってもというのだ。
「お主にも言うがわしは大阪が欲しいのであってな」
「豊臣家自体は」
「構わんからな」
滅ぼすつもりはないからというのだ。
「大目に見ておるのじゃ」
「ですが切支丹は」
「それだけはならんからな」
「それでは」
「若し切支丹を認めれば」
大坂、即ち豊臣家がだ。
「その時は断ずる」
「それしかありませぬか」
「そうじゃ、大久保家にしてもな」
「切支丹が」
「関わっておるからな」
だからだというのだ。
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