巻ノ百十四 島津忠恒その九
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「二人は国松の方が可愛いのじゃ」
「お子として」
「しかし次の将軍はな」
「あくまで」
「竹千代じゃ」
「そうなりますか」
「だからな、お主はじゃ」
「安心をして」
「二人もわかっておるしわしもじゃ」
大御所である彼もというのだ。
「お墨付きを与えておるな」
「はい、次の将軍だと」
「なら大丈夫じゃ、ただしな」
「ただし、ですか」
「わしは源氏長者じゃが源氏の様なことはしたくない」
こうもだ、春日局に言うのだった。
「父上も祖父上も殺されておるしな、特に身内同士のああしたことは」
「しれはならぬと」
「常に思っておる」
これが家康の考えだった。
「源氏のあの因縁はな」
「繰り返してはならぬと」
「そうじゃ」
「若し繰り返せは」
「何もかもなくなる」
「家自体が」
「そうじゃ」
源氏は身内同士で殺し合い誰もいなくなった、そうしたことは絶対にしてはならないというのだ。
「だからな」
「はい、それでは」
「身内はな」
徳川家の者はというのだ。
「出来る限りじゃ」
「血生臭いことにならずに」
「そしてじゃ」
さらに言うのだった。
「徳川、松平で幕府を支えていくことじゃ」
「わかりました」
「うむ、しかしな」
「それでもですか」
「やはり一度はな」
どうしてもとだ、家康は苦い顔で言うのだった。
「そうしたことはあろう」
「どうしても」
「室町の幕府もな」
その幕府もというのだ。
「あったな」
「はい、尊氏公も義持公も」
「弟殺しがあった」
それをしてしまったというのだ。
「残念なことにな、しかしな」
「この幕府では」
「出来る限りじゃ」
「避けることですか」
「それは忌まわしいし力も削ぐ」
徳川家ひいては幕府のというのだ。
「だからな」
「幕府の中で」
「盛り立てるのじゃ」
こう春日局に話した。
「よいな」
「徳川家自体を」
「そうじゃ、将軍だけではない」
「家そのものをですか」
「贔屓にはせぬが」
しかしというのだ。
「家全体をじゃ」
「大事にし」
「そしてじゃ」
「幕府を栄えさせていきますか」
「鎌倉の幕府の様なことは絶対に避ける」
身内同士の殺し合い、それはというのだ。
「絶対にな」
「では」
「お主にもそれを頼む」
春日局、彼女にもというのだ。
「よいな」
「上様だけではなくですか」
「時には非情になろうともな」
そうせざるを得ない時があってもというのだ。
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