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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
第百三十二話 残暑に入ってきてその十

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「弾いていませんでしたので、最近は」
「では」
「今から弾かせてもらいますね」
 結構乗り気だった、僕から見て。
「早速」
「そうですか」
「久し振りに弾きたくなりましたし」
「お邪魔かと思ったのですが」
「弾けるなら歓迎です」
 それならという返事だった。
「私にしましても」
「そうですか」
「はい、ただ」
「ただ?」
「楽譜を持って来ますので」
 それをというのだ。
「少し待っていて下さい」
「そうですか」
「はい、では」
 こうしてだ、早百合さんはマイヤーベーヤの曲の楽譜を持って来てだった。ピアノに座ってそうして弾きはじめた。
 その演奏を聴きつつだ、僕は一緒に聴いている裕子さんに言った。
「はじめて聴きます」
「そうした曲ですか」
「この曲は一体の」
「悪魔のオベールのシスターの踊りの場面ですね」
「シスターの?」
「墓場から蘇ったシスターが踊る場面がありますが」
 その悪魔のオベールという歌劇にはというのだ。
「その場面の曲です」
「そうなんですか」
「はい」
 実際にというのだ。
「この曲です」
「何か」
「派手な曲ですか」
「そう思いました」
 僕にしてはだ。
「何か」
「そうした曲なのは事実です」
 このことは偽りなく、というのだ。
「グランドオペラの特徴でして」
「こうした曲は」
「マイヤーベーヤだけでなく」
「そうですか」
「派手で観ている人を楽しませるものです」
「そう聞きますと」
 僕が聞く限りで思ったことだ。
「娯楽みたいですね」
「はい、娯楽です」
「そうだったんですか」
「そもそも歌劇はです」
 これ自体がというのだ。
「娯楽です」
「芸術じゃなくて」
「娯楽です」
 それになるというのだ。
「元々は」
「そうだったんですね」
「はい、ですからグランドオペラもです」
「娯楽として」
「かなり楽しまれていました」
 上演当時はそうだったというのだ。
「芸術ではなく娯楽として、むしろ」
「むしろ?」
「芸術と言うと高尚ですが音楽自体がです」
 それ自体がというのだ。
「娯楽です」
「そうですか」
「はい、娯楽です」
 それになるというのだ。
「芸術と娯楽の区別はあまりないと思って下さい」
「そうですか」
「はい、そうです」
「芸術と娯楽は」
「あまりないです」
 裕子さんは僕にとっては意外なことを話してくれた。
「これが」
「そうなんですね」
「人は楽しむ為に音楽を奏でています」
「歌も歌っていますね」
「はい、楽しむことは娯楽ですね」
「そうなりますね」
 僕も裕子さんのその言葉に頷いた。
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