アージェント 〜時の凍りし世界〜
第三章 《氷獄に彷徨う咎人》
舞うは雪、流れるは雲B
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ーを生じ、それは軽度の時空震すら引き起こした。灼熱の暴風と、極寒の吹雪は互いを呑み込み、跡形も無く消滅したのだった。
「……術式の、書き換えだと……。」
一部始終を見ていたシグナムは言葉が出ない。本来、一度完成させた術式は書き換える事が出来ない。下手に手を加えると留めていた魔力そのものが霧散してしまうからだ。出来るとすれば可能性は一つ。『初めから書き換える前提で術式を構成した』という事だ。
無論、簡単な事では無い。書き換え時は勿論、元の術式を組み立てる所から人外の超精密魔力コントロールが要求される。それを暁人は、いともあっさりとやり遂げたのだ。
「………待て、奴は!?」
シグナムを始め、全員が我を取り戻す頃には、既に暁人の姿は消えていたのだった。
『……で、逃げてきたのね?』
「まあな、案外厳しかったけど。」
画面の向こうのエヴァに努めて軽く返す暁人。
ここは暁人の用意していた隠れ家、白峰家の誰も知らない別荘だ。暁人の父、日暮の研究は人前には出せない様なものも多く、そういった研究を行う為に作られた建物だ。そのうちに、夏冬は家族で此処で過ごす様になり、生活設備が増築された。
『アースラは大慌てよ。あんたが派手にやるものだから。』
「これぐらい見せ付けとかないとな。次は温存なんてさせない。全力に相手させる。」
『……まあ、そうなるでしょうね。こっちでも工作はするわ。』
「頼む。……それで、全部終わりだ。」
『そうね………』
暫し黙り込む暁人とエヴァ。先に口を開いたのは暁人だ。
「そう言えば、前回の通信の時、最後に何か言いかけてなかったか?」
『ああ……解決したから大丈夫よ。』
「………そうか。ならいい。」
『……何よ?何か気になるの?』
「いや……いつもと様子が違うような気がしてな。」
『……そうかしら?自覚は無いけど。』
「……まあ、キツい仕事頼んでるからな。疲れてるんだろ。あと少し、手伝ってくれ。」
『言われなくても、ね。』
違和感の欠片もない会話。しかし暁人は、どうにも拭えない小さな凝りの様なものを抱えていた。
「……流石だな。」
通信が切られ、モニターの落ちた通信室にドウェルの声が響く。その前には、糸の切れた人形の様にぐったりとしているエヴァの姿がある。
「通信機越しに私の催眠を感じ取るとは……いやはや、少し焦ったよ。」
口調こそ柔らかなままの彼だが、その言葉の裏には、どこか得体の知れない響きが存在してた。
「あれから四年……よく育ったものだよ、『成り損ないの皇帝』……我が、愛弟子よ。待っているよ、君の策の、その向こう側で、ね。」
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