辺境異聞 10
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がそろってお出迎え……。というわけでもなさそうだね。まさかまだアキヨシの入学の是非を巡って議論していたとかじゃないだろうね」
「そのまさかだ、セリカ=アルフォネア! 聞けば件のカモ・アキヨシを連れ回しているそうじゃないか。彼はまだ正式に入学していないんだぞ。勝手な真似は慎んでもらおう」
二十代半ばの、神経質そうな眼鏡の講師――ハーレイ=アストレイが進み出て非議する。
GOOOッ!
「ヒェッ!?」
漆黒の竜ヘイフォンが鼻から蒸気をあげて、うるさい人間を一瞥した。
「とっとと決めちまえよ」
セリカはそう言って竜の背から軽やかに跳ぶと、優雅に降り立った。体重があることを感じさせない、ヒールの高い靴を履いている者の動きとは思えない身のこなしだ。
「物事には順序というものがある。学年はカルネの月一日にはじまり、翌年フィリポの月三十一日に終わるのだ。今この時期に第一次生を編入するのは学院側としても準備を必要とし、どの講師の担当にするかも決めなければ――」
GAAAッ!
「ヒェッ!? そ、そのドラゴンを引っ込めないか、セリカ=アルフォネア!」
「このドラゴンは私の使い魔じゃない。彼のだ」
「正確には『使い魔』でもないんだけどな」
セリカの後に続いて秋芳も降りる。
「会議は踊る、されど進まず。状態のようだな。まぁ、横紙破りをするつもりはないから結果が出るまで気長に待つさ」
《その人を、すぐに入学させてあげて》
「――ッ!?」
内なる声が、セリカの脳内に響いた。
だが、これはいつもの内なる声ではない。玉の鈴を鳴らしたかのような、玲瓏たる美声。それもまだ若い、少女の声だ。
《その人は貴女の目的を果たす力になってくれる。貴女がふたたび魂に傷を負った時、彼が癒してくれる。――彼を地下の奥まで連れてきてちょうだい、彼はそこから帰れる――貴女の求めるも得られる――》
「おい、どうした?」
「担当なら、私がなる」
「なんだと?」
この発言には秋芳以外の、その場にいた講師陣もおどろいた。セリカは学院の地下に存在する古代遺跡の探索を定期的におこなう関係で、学生の指導はしない通例なのだ。
「ナーブレス公爵家の後援にシーホークの街を守った実績、騎士爵という身分、適性検査の結果――。アルザーノ帝国魔術学院が彼を拒む要素はなにひとつ存在しない。学院長、ご決断を」
「……うむ、そうだな。カモ・アキヨシの入学を認めよう。彼は本日をもってアルザーノ魔術学院の第一次生とする」
こうして、賀茂秋芳はアルザーノ帝国魔術学院の正式な一員となった。
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